【2020年民法改正】債権者代位権【勉強ノート】

改正のポイント

 基本的には,債権者代位制度に関する従来の運用を踏襲し,それを条文上も明確にする改正です。

 しかし,債権者が被代位権利の行使に着手した後も,債務者に当該権利の処分権限を認めたり,債務者に対する訴訟告知の制度を創設するといった,従来の運用を変える改正も行われているため,注意が必要です。

債権者代位権の要件等(新法§423)

変更点

旧法 新法

【423条】(債権者代位権)
1項:債権者は,自己の債権を保全するため,債務者に属する権利を行使することができる。ただし,債務者の一身に専属する権利は,この限りでない。

2項:債権者は,その債権の期限が到来しない間は,裁判上の代位によらなければ,前項の権利を行使することができない。ただし,保存行為は,この限りでない。

【423条】(債権者代位権の要件
1項:債権者は,自己の債権を保全するため必要があるときは,債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし,債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は,この限りでない。

2項:債権者は,その債権の期限が到来しない間は,被代位権利を行使することができない。ただし,保存行為は,この限りでない。

3項:債権者は,その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは,被代位権利を行使することができない。

説明

1 保全の必要性(新法§423Ⅰ本文)

 まず,旧法§423Ⅰ本文では,「自己の債権を保全するため」とされていたのが,新法§423Ⅰ本文では,「自己の債権を保全するため必要があるとき」との文言に変更されています。これは,債権者が,債権者代位権を行使することによって,債務者の財産管理に干渉することができるのは,債務者の責任財産が不十分となって,債権を保全する必要性が生じている場合に限られるという旧法下での運用を明瞭にする趣旨です。

2 差押禁止債権(新法§423Ⅰ但書)

 新法では,差押禁止債権を被代位権利として代位行使することができないことも明文化されました(新法§423Ⅰ但書)。これについても,旧法下でも,責任財産に含まれない差押禁止債権は,これを被代位権利として代位行使することができないと一般に解されていたため,やはり旧法下での運用を明瞭にするための改正といえるでしょう。

3 強制執行により実現することのできない債権(新法§423Ⅲ)

 新法では,強制執行により実現することのできない債権を被代位権利として代位行使することができないことも明文化されました(新法§423Ⅲ)。これについても,旧法下でも,債権者代位制度が後の強制執行に備えて責任財産を保全する制度である以上,強制執行により実現することのできない債権は,これを被代位権利として代位行使することができないと一般に解されていたため,やはり旧法下での運用を明瞭にするための改正といえるでしょう。

4 裁判上の代位制度の廃止

 新法では,旧法§423Ⅱ本文の「裁判上の代位によらなければ」との文言が削除することにより,裁判上の代位制度を廃止することを明らかにしました(新法§423Ⅱ本文)。被保全債権の期限は到来していないが,責任財産となる財産を保全する必要がある場合は,民事保全法に基づく民事保全制度を利用すれば十分であるとの考慮から,このように裁判上の代位制度が廃止される運びとなりました。

要件事実

 債権者代位権行使の実体法上の要件は,①被保全債権の存在,②保全の必要性,③被代位権利の存在,④債務者が③の権利を行使をしていないこと,⑤③の権利が一身に専属する権利ではないこと(新法§423Ⅰ但書),⑥③の権利が差押えを禁じられた権利ではないこと(新法§423Ⅰ但書),⑦①の債権の期限が到来していること(新法§423Ⅱ),⑧①の債権が強制執行により実現することができないものではないこと(新法§423Ⅲ)です。なお,②の「保全の必要性」とは,債務者が無資力であることをいいます。

 ①~⑧のうち,①,②,③が,❶被保全債権の発生原因事実,❷保全の必要性を基礎付ける事実,❸被代位権利の発生原因事実として,請求原因事実となります。

 ④については,❶~❸が充足されることで債権者代位権は発生するため,「債務者が❸の権利を行使したこと」が,債権者代位権の法律効果の発生を障害する抗弁となります。

 ⑤,⑥については,「❸の権利が一身に専属する権利であること」や「❸の権利が差押えを禁じられた権利であること」が抗弁になるわけではありません。つまり,請求原因で主張・立証された「❸被代位権利の発生原因事実」をみれば,❸の権利が一身専属権か否か,差押禁止債権か否かということは判るので,抗弁で❸の権利がそうした権利に当たると主張されるまでもなく,そうした権利が代位行使された場合は,主張自体失当であり,請求が棄却されるからです。

 ⑦については,「❶の債権に期限の定めがあること」が抗弁となり,「その期限が到来したこと」が再抗弁になります。

 ⑧については,「❶の債権が強制執行により実現することができないものであること」が抗弁になるわけではありません。つまり,請求原因で主張・立証された「❶被保全債権の発生原因事実」をみれば,❶の債権が強制執行により実現することができない債権であるか否かは判るので,抗弁で❶の債権がそうした債権に当たると主張されるまでもなく,そうした債権が被保全債権とされた場合は,原告適格なしとして,訴えが却下されるからです。

 なお,後述しますが,新法では,相手方は,債務者に対して主張することができる抗弁をもって,被代位権利を行使した債権者に対抗することができる旨の規定も新設されています(新法§423の4)。

 以上より,請求原因事実は,既に述べましたように,❶被保全債権の発生原因事実,❷保全の必要性を基礎付ける事実,❸被代位権利の発生原因事実の3つとなるのです。

 こうした要件事実の整理は,この度の民法改正によって一新されたものではなく,旧法下での議論を踏襲したものです。

 以上の要件事実の整理を図示すると以下のようになります。

 債権者代位権に関する規定に明文化されてはいませんが,当然のことながら,被保全債権の発生障害・消滅・阻止事由も抗弁となります。

 なお,後述のとおり,新法では,「債権者は,債権者代位に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない」との規定が新設されたため(新法§423の6),かかる遅滞なき訴訟告知が行われなければ,原告適格が否定され,訴えが却下されます

債権者代位権の行使方法等(新法§423の2~6)

変更点

旧法 新法
規定なし 【423条の2】(代位行使の範囲)
債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,被代位権利を行使することができる。
規定なし 【423条の3】(債務者への支払又は引渡し)
債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは,相手方に対し,その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において,相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは,被代位権利は,これによって消滅する。
規定なし 【423条の4】(相手方の抗弁)
債権者が被代位権利を行使したときは,相手方は,債務者に対して主張することができる抗弁をもって,債権者に対抗することができる。
規定なし 【423条の5】(債務者の取立てその他の処分の権限等)
債権者が被代位権利を行使した場合であっても,債務者は,被代位権利について,自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては,相手方も,被代位権利について,債務者に対して履行をすることを妨げられない。
規定なし 【423条の6】(被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知等)
債権者は,被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない。

説明

1 代位行使の範囲(新法§423の2)

 新法では,判例(最判昭和44年6月24日)を踏まえ,債権者は,債務者の権利が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,代位行使をすることができる旨の規定を新設しました(新法§423の2)。

2 債権者から相手方への直接の支払請求等(新法§423の3)

 新法では,判例(大判昭和10年3月12日)を踏まえ,被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは,代位した債権者は,直接自己に対してその支払や引渡しをするよう相手方に求めることができる旨の規定を新設しました(新法§423の3前段)。

 その上で,その支払や引渡しが代位した債権者にされたときは,被代位権利は消滅する旨の規定も新設されました(同条後段)。

3 相手方が債務者に対して有する抗弁(新法§423の4)

 新法では,判例(大判昭和11年3月23日)を踏まえ,相手方は,債務者に対して主張することができる抗弁をもって,被代位権利を行使した債権者に対抗することができる旨の規定も新設されています(新法§423の4)。債権者代位の場合に,債務者自身が権利を行使した場合と比較して,相手方が不利益に扱われる理由はないので,かかる抗弁が認められるのは当然といえます。

4 代位行使後の債務者の処分権限の帰趨(新法§423の5)

 旧法下では,債権者が被代位権利の行使に着手した後は,債務者は当該権利について取立てその他の処分をすることができないし,相手方も債務者に対して当該債務の履行をすることができないものとされていました(大判昭和14年5月16日等)。

 しかし,新法では,債権者が被代位権利を行使した場合であっても,債務者はその権利について取立てその他の処分をすることができ,相手方も債務者に対して履行をすることが妨げられないとして,その旨明文化しました(新法§423の5)。

 かかる改正の理由は次のとおりです。

 債権者代位制度の目的が責任財産の保全にあるのであれば,代位行使後も,債務者に被代位権利について取立て等の処分を認めたとしても,債権者代位制度の目的を達することができます。他人の財産管理への介入はなるべく謙抑的であるべきなので,前述のように代位行使後の債務者の処分権限を肯定するのが妥当です。

 また,債権者が被代位権利の代位行使に着手した後,債務者による取立てが制限された結果,相手方が債務者に対して債務の履行をすることも禁止されるとすれば,相手方は債権者代位権の要件が充足されているかどうかを自ら判断して,債務者に対して債務の履行をすべきどうかを決しなければなりません。しかし,債権者代位権の要件充足性判断は微妙になることも多く,相手方にそのような負担を負わせるのは妥当ではありません。

 以上から,債権者が被代位権利を行使した場合であっても,債務者はその権利について取立てその他の処分をすることができ,相手方も債務者に対して履行をすることが妨げられないとする新法§423の5は妥当であるといえます。

5 債務者に対する訴訟告知の制度の創設

 新法では,債権者は,債権者代位に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない旨の規定を新設しました(新法§423の6)。

 旧法下でも,債権者代位に係る訴えの判決効は債務者にも及ぶと解されており,そうであれば,債務者に当該訴えの存在を認識させ,その審理に参加する機会を保障する仕組みを設けるのが妥当です。

登記・登録請求権を保全するための債権者代位権(新法§423の7)

変更点

旧法 新法
規定なし 【423条の7】(登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権)
登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は,その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは,その権利を行使することができる。この場合においては,前三条の規定を準用する。

説明

 新法では,判例(大判明治43年7月6日)を踏まえ,不動産等の譲渡がされた場合において,譲渡人が第三者に対し登記等移転請求権を有していながら,その権利を行使せず,その結果,譲受人に登記等が移転されないときは,譲受人は,譲渡人に対する登記等移転請求権の保全を目的として,譲渡人がその第三者に対して有する登記等移転請求権を代位行使することができる旨の規定が新設されました(新法§423の7)。いわゆる「転用型の債権者代位権」の一種が明文化されたものです。

要件事実

 転用型債権者代位では,債務者の無資力は要件となりません。

確認問題〔債権者代位権〕

新法に基づいて回答してください!(全3問)

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