保証の基本的な内容に関する改正が行われたほか,保証人保護の見地から,債権者が一定の保証人に対し,一定の情報提供義務を負う旨の規定が新設されました。
保証の基本的な内容に関する改正
保証人の負担
旧法 | 新法 |
【448条】(保証人の負担が主たる債務より重い場合) 保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは,これを主たる債務の限度に減縮する。 |
【448条】(保証人の負担と主たる債務の目的又は態様) 2項:主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても,保証人の負担は加重されない。 |
旧法では,保証契約締結時,保証人の負担が主債務者よりも重い場合は,主債務の限度に減縮する旨の規定が設けられており,当該規定は新法でも維持されています(新法§448Ⅰ)。
新法では,学説等での流れを踏まえ,かかる保証契約締結時に関するルールに加え,保証契約締結後に関するルールについても明文化しました。
主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても,保証人の負担は加重されないというものです(同条Ⅱ)。
主債務者が債権者に対し抗弁を主張できる場合
旧法 | 新法 |
【457条】(主たる債務者について生じた事由の効力) 2項:保証人は,主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。 |
【457条】(主たる債務者について生じた事由の効力) 2項:保証人は,主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。 3項:主たる債務者が債権者に対して相殺権,取消権又は解除権を有するときは,これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において,保証人は,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。 |
(1) 新法§457Ⅰは,時効に関する概念整理がされたことに伴って,字句が改められていますが,実質的意義において変更はありません。
(2) 同条Ⅱでは,保証人の利益の保護の見地から,相殺権のみならず,主たる債務者が債権者に対して有している抗弁一般について対抗を認める旨の改正が加えられました。
(3) さらに,新法では,保証人の利益の保護の見地から,主たる債務者が債権者に対して相殺権・取消権・解除権を有する場合,これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務の履行を免れる限度で,保証債務の履行を拒絶することができる旨の規定が新設されました(新法§457Ⅲ)。
この履行拒絶権の行使の訴訟法的性質は,権利抗弁であると解されています。
連帯保証人に対する履行請求の効力
旧法 | 新法 |
【458条】(連帯保証人について生じた事由の効力) 第四百三十四条から第四百四十条までの規定は,主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。 |
【458条】(連帯保証人について生じた事由の効力) 第四百三十八条,第四百三十九条第一項,第四百四十条及び第四百四十一条の規定は,主たる債務者と連帯して債務を負担する保証人について生じた事由について準用する。 |
民法§458で連帯債務に関する規定を適宜準用するという構造に変わりはないのですが,この度の改正で,履行請求は相対的効力事由に改められました。
したがって,連帯保証人に対する履行の請求は,原則として,主債務者に対してその効力を生じません(新法§458・§441前段)(これに対し,主債務者に対する履行請求は,保証の付従性から,連帯保証人に対しても,その効力が及ぶことには注意してください)。
連帯保証人に生じた事由で,主債務者に対しても効力を及ぼすものは,①弁済等の履行,②更改,③相殺,④混同のみです(①は解釈上,②~④は新法§458により絶対的効力事由となります)。
ただし,債権者及び主債務者が別段の意思を表示していた場合には,例外的に,連帯保証人に生じた事由の主債務者に対する効力はその意思に従うことになります(新法§458・§441後段)。
ちなみに,以下のページでは,連帯保証等の絶対的効力を一覧表にしてまとめてありますので,是非ご活用ください。
保証人の主債務者に対する求償権の額
旧法 | 新法 |
【459条】(委託を受けた保証人の求償権) 2項:第四百四十二条第二項の規定は,前項の場合について準用する。 |
【459条】(委託を受けた保証人の求償権) 2項:第四百四十二条第二項の規定は,前項の場合について準用する。 |
新法§459Ⅰでは,旧法§459Ⅰの「過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け」との文言が削除されていますが,それについては後述します。
ここでは, 新法§459Ⅰにおいて,委託を受けた保証人が債務の消滅行為をした場合に保証人が主債務者に対して有する求償権の額に関して明文化されたことについて述べます。
同項では,「そのために支出した財産の額(その財産の額がその債務の消滅行為によって消滅した主たる債務の額を超える場合にあっては,その消滅した額)」との文言が追加されています。
例えば,保証人が代物弁済により免責を得た場合には,実際に支出した財産の額(出捐額)と主たる債務についての免責の額(免責額)とが一致しないことが生じ得ますが,どちらの額をもって主債務者に償還させるべきかについては,旧法下では規定がなく,不明でした。
そこで,新法では,出捐額が主たる債務の免責額以下である場合には出捐額を,出捐額が免責額を超える場合には免責額を基準とすることにしました。
保証人による弁済期前の債務消滅行為
委託を受けた保証人の求償権の額等の制限
旧法 | 新法 |
規定なし |
【459条の2】(委託を受けた保証人が弁済期前に弁済等をした場合の求償権) 2項:前項の規定による求償は,主たる債務の弁済期以後の法定利息及びその弁済期以後に債務の消滅行為をしたとしても避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。 3項:第一項の求償権は,主たる債務の弁済期以後でなければ,これを行使することができない。 |
保証人が主債務の弁済期前であるのに債務の消滅行為をすることは,主債務者の委託の趣旨に反すると考えられること等を踏まえ,委託を受けた保証人が主債務の弁済期前に債務の消滅行為をした場合には,委託を受けない保証人が債務の消滅行為をした場合(旧法§462参照)と同様に求償権の額は制限されます(新法§459の2Ⅰ)。
また,求償可能な法定利息は主債務の弁済期以後のものに,費用その他の損害賠償も弁済期以後に債務消滅行為をしたとしても避けることができなかったものに,それぞれ制限されます(同条Ⅱ)。
求償権行使時期の制限
さらに,大判大正3年6月15日を踏まえ,保証人は,主債務の弁済期前に債務の消滅行為をしたとしても,主債務の弁済期以後でなければ,求償権を行使することができないとの規定も新設されました(新法§459の2Ⅲ,§462Ⅲ)。
主債務の弁済期前に債務の消滅行為をした保証人が弁済期前に求償権を行使することを認めると,主債務者は期限の利益を喪失したのと同じ結果となることを理由とします。
主債務者が債務消滅以前における相殺原因の存在を主張する場合
前掲のとおり,主債務者が債務の消滅行為の日以前に相殺の原因を有していたことを主張する場合には,保証人は,債権者に対し,その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができるとの規定も新設されています(新法§459の2Ⅰ後段)。
主債務者に求償することができない保証人に,債権者から回収をする手段を確保させることを目的とする規定です。
ちなみに,保証人が,主債務者から保証の委託を受けた保証人であるかどうかは問いません(無委託保証人に関する新法§462Ⅰは新法§459の2Ⅰ後段を準用しています)。
旧法§459Ⅰの移設
旧法 | 新法 |
【459条】(委託を受けた保証人の求償権) 2項:(省略) 【460条】(委託を受けた保証人の事前の求償権) |
【459条】(委託を受けた保証人の求償権) 2項:(省略) 【460条】(委託を受けた保証人の事前の求償権) |
旧法§459のうち,保証人が主債務者の委託を受けて保証をした場合において,過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けた保証人は,主債務者に対して求償権を有するとの部分について,これが保証人において実際に債権者に弁済をする前に事前求償権を行使することができる旨を定めたものであることを明確にするため,事前求償権についての条文である新法§460に規定を移設しました(同条③)。
旧法§460③の削除
旧法§460③は,実務上,ほとんど利用されていなかったため,削除されました。
保証人の事前通知制度
委託を受けた保証人
旧法 | 新法 |
【463条】(通知を怠った保証人の求償の制限) 2項:保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,善意で弁済をし,その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,第四百四十三条の規定は,主たる債務者についても準用する。 |
【463条】(通知を怠った保証人の求償の制限等) 2項・3項:(省略) |
新法では,委託を受けた保証人は,履行の請求を受けた場合だけでなく,履行の請求を受けずに自発的に債務の消滅行為をする場合であっても,主債務者に事前通知をしなければなりません(新法§463Ⅰ前段)。
いずれの場合であっても,主債務者保護の要請が働くからです。
委託を受けない保証人
新法では,委託を受けない保証人については,事前通知の制度が廃止されました。
委託を受けない保証人の場合,そもそも求償権の範囲が,①保証人が弁済等の免責行為をした当時に主債務者が利益を受けた限度(主たる債務者の意思に反しない場合,旧法§462Ⅰ),又は,②求償時に主たる債務者が現に利益を受けている限度(主たる債務者の意思に反する場合,同条Ⅱ)に,それぞれ制限されます。そして,主債務者が債権者に対抗できる事由を有しているときは,①又は②の時点において,主債務者に何らの利益も生じていないこととなるため,そもそも求償請求をすることができません。それにもかかわらず,委託を受けない保証人に旧法§463Ⅰ・§443Ⅰに基づく事前通知をするよう要求することは不合理です。そこで,委託を受けない保証人については,旧法§463Ⅰの対象から除外する必要がありました。
そういうわけで,新法では,新法§463Ⅰの対象を委託を受けた保証人に限定し,委託を受けない保証人について,事前通知の制度を廃止したのです。
主債務者の意思に反する保証人
旧法 | 新法 |
【463条】(通知を怠った保証人の求償の制限) (前述) |
【463条】(通知を怠った保証人の求償の制限等) 1項:(前述) 2項:(省略) 3項:保証人が債務の消滅行為をした後に主たる債務者が債務の消滅行為をした場合においては,保証人が主たる債務者の意思に反して保証をしたときのほか,保証人が債務の消滅行為をしたことを主たる債務者に通知することを怠ったため,主たる債務者が善意で債務の消滅行為をしたときも,主たる債務者は,その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができる。 |
主債務者の意思に反する保証人による事後通知の制度(旧法§463Ⅰ・§443Ⅱ)も廃止されました(新法§463Ⅲ参照)。
保証人に対する情報提供義務に関する規定の新設
主債務の履行状況に関する情報の提供義務
旧法 | 新法 |
規定なし | 【458条の2】(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務) 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,保証人の請求があったときは,債権者は,保証人に対し,遅滞なく,主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。 |
新法§458の2は,請求権者を委託を受けた保証人に限定した上で,債権者に対し,主たる債務者の履行状況等について情報提供義務を課すものです。
債権者が把握している主債務者の履行状況に関する情報は,保証人として履行しなければならない保証債務の内容に関わる重要な情報なので,保証人としては債権者に情報の提供を求めたいところです。
しかし,債権者としても,主債務の履行状況に関する情報は主債務者の財産的な信用に関わるものであり,これを保証人に提供することで守秘義務や個人情報保護に反するおそれがあるので,おいそれと保証人の要求に応じることは憚られます。
そこで,新法では,両者の調和を図り,主債務の履行状況に関する情報の提供を求める権利の行使主体を,主債務者から委託を受けた保証人に限定した上で,情報提供に法的根拠を与えることにしたのです。
なお,債権者において,この義務の履行を怠り,保証人が損害を被った場合には,保証人は,債権者に対し,生じた損害の賠償を請求することができます(新法§415)。
主債務者の期限の利益喪失時における情報提供義務
旧法 | 新法 |
規定なし |
【458条の3】(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務) 2項:前項の期間内に同項の通知をしなかったときは,債権者は,保証人に対し,主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。 3項:前二項の規定は,保証人が法人である場合には,適用しない。 |
新法では,保証人が個人である場合には,遅延損害金の額が保証人の想定を超え,保証人が負担しきれない程に膨れ上がることを防止するため,①主債務者が期限の利益を喪失した場合には,債権者は,その利益の喪失を知った時から2箇月以内にその旨を保証人に通知しなければならず,②その通知をしなかったときは,保証人に対し,期限の利益を喪失した時から通知を現にするまでに生じた遅延損害金を請求することができない旨の規定が新設されました(新法§458の3)。
当該通知は,主債務者が期限の利益を喪失したことを知った時から2箇月以内に通知を発信するだけでは足りず,2箇月以内に通知が保証人に到達することが必要であるとされています。
そして,債権者が主債務者の期限の利益の喪失を知った時から2箇月以内に通知が保証人に到達しなかったときは,債権者は,保証人に対し,主たる債務者が期限の利益を喪失した時から当該通知が保証人に到達するまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができなくなるので,注意が必要です(同条Ⅱ)。
請求することができなくなる遅延損害金に係る保証債務の範囲は,債権者が主債務者の期限の利益の喪失を知った後2箇月経過した時から前記通知が保証人に到達するまでの間に発生した遅延損害金に限られないんです。
このことから,同項の定めは,前記通知を怠った債権者に対する制裁として機能していることがいえます。
確認問題〔保証〕
新法に基づいて回答してください!(全5問)