【2020年民法改正】債務引受【勉強ノート】

債務引受の概要

 債務引受とは,債務者が負担する債務と同一の内容の債務を契約によって第三者が負担するというものです。

 そして,債務引受には,第三者が債務を負担した後も元の債務者が引き続き債務を負担する「併存的債務引受」と,第三者が債務を負担した後は元の債務者がその債務を免れる「免責的債務引受」とがあります。

 新法には,債務引受について定める規定はありませんでしたが,実務上,債務引受は広く用いられていました。

 判例でも,債務引受は認められていました(併存的債務引受につき大判大正15年3月25日,大判大正6年11月1日等,免責的債務引受につき大判大正5年7月3日等)。

 そこで,新法では,債務引受に関する規定を新設することとしました(新法§470ないし§472の4)。

併存的債務引受

要件・効力発生時期

旧法 新法
規定なし

【470条】(併存的債務引受の要件及び効果)
1項: 併存的債務引受の引受人は,債務者と連帯して,債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。

2項:併存的債務引受は,債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。

3項:併存的債務引受は,債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において,併存的債務引受は,債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に,その効力を生ずる。

4項:前項の規定によってする併存的債務引受は,第三者のためにする契約に関する規定に従う。

 併存的債務引受は,引受人となる者と債権者又は債務者との契約によって成立します(新法§470Ⅱ,Ⅲ前段)。

 そして,債権者が引受人となる者に対して承諾をした時点で,併存的債務引受の効力が発生します(新法§470Ⅲ後段)。

効果

旧法 新法
規定なし

【471条】(併存的債務引受における引受人の抗弁等)
1項:引受人は,併存的債務引受により負担した自己の債務について,その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。

2項:債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは,引受人は,これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

 併存的債務引受の引受人は,債務者と連帯して,債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担します(新法§470Ⅰ)。

 また,併存的債務引受の効力発生時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができます(新法§471Ⅰ)。

 さらに,債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有する場合には,引受人は一定の限度で自己の債務の履行を拒むことができます(同条Ⅱ)。

免責的債務引受

要件・効力発生時期

旧法 新法
規定なし

【472条】(免責的債務引受の要件及び効果)
1項:免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し,債務者は自己の債務を免れる。

2項:免責的債務引受は,債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において,免責的債務引受は,債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に,その効力を生ずる。

3項:免責的債務引受は,債務者と引受人となる者が契約をし,債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

 免責的債務引受は,引受人となる者と債権者との契約によって成立します(新法§472Ⅱ前段)。また,引受人となる者と債務者との契約によっても成立させることができます(同条Ⅲ前段)。

 ただし,引受人と債権者との契約によって成立させる場合は,債権者が債務者に免責的債務引受契約の成立を通知をした時点で免責的債務引受の効力が発生します(同条Ⅱ後段)。

 引受人と債務者との契約によって成立させる場合は,債権者が免責的債務引受を引受人となる者に対して承諾した時点でその効力が発生します(同条Ⅲ後段)。

  成立要件 効力発生時期
併存的債務引受 引受人となる者と債権者又は債務者の契約 債権者の引受人となる者に対する承諾時
免責的債務引受 引受人となる者と債権者の契約 債権者による債務者への通知時
引受人となる者と債務者の契約 債権者の引受人となる者に対する承諾時

効果

旧法 新法
規定なし

【472条の2】(免責的債務引受における引受人の抗弁等)
1項:引受人は,免責的債務引受により負担した自己の債務について,その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。

2項:債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは,引受人は,免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度において,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

規定なし 【472条の3】(免責的債務引受における引受人の求償権)
免責的債務引受の引受人は,債務者に対して求償権を取得しない。
規定なし

【472条の4】(免責的債務引受による担保の移転)
1項:債権者は,第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし,引受人以外の者がこれを設定した場合には,その承諾を得なければならない。

2項:前項の規定による担保権の移転は,あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。

3項:前二項の規定は,第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。

4項:前項の場合において,同項において準用する第一項の承諾は,書面でしなければ,その効力を生じない。

5項:前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは,その承諾は,書面によってされたものとみなして,同項の規定を適用する。

 免責的債務引受の引受人は,債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し,債務者は自己の債務を免れます(新法§472Ⅰ)。

 ただし,判例(大判明治36年10月3日)を踏まえ,引受人は債務を引き受けても,当然には債務者に対して求償権は取得しない旨定められています(新法§472の3)。

 もっとも,新法§472の3は任意規定であり,引受人と債務者との間で引受人に求償権を取得させる旨の合意を行えば,引受人は求償権を取得できるものと解されています。

 また,引受人は,免責的債務引受の効力発生時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができます(新法§472の2Ⅰ)。

 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有する場合には,一定の限度で自己の債務の履行を拒むこともできます(同条Ⅱ)。

 さらに,債権者は,債務者が負担していた債務の担保として設定された担保権及び保証について,引受人が負担する債務に移転させることもできます(新法§472の4Ⅰ・Ⅲ)。

 ただし,移転させるには,債権者があらかじめ又は同時に引受人に対して移転をさせる旨の意思表示が必要になります(同条Ⅱ・Ⅲ)。移転の対象となる担保権や保証を引受人以外の者が設定している場合には,その者の書面又は電磁的記録による承諾も必要となります(同条Ⅰ但書・ⅢないしⅤ)。

確認問題〔債務引受〕

新法に基づいて回答してください!(全3問)

タイトルとURLをコピーしました