使用貸借の終了場面に関していくつかの改正が行われていますが,旧法下の一般的な解釈を踏まえたものであるため,実務に影響はないといわれています。
使用貸借の終了
新法 | 旧法 |
【597条】(借用物の返還の時期) 2項:当事者が返還の時期を定めなかったときは,借主は,契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に,返還をしなければならない。ただし,その使用及び収益を終わる前であっても,使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,貸主は,直ちに返還を請求することができる。 3項:当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも返還を請求することができる。 【599条】(借主の死亡による使用貸借の終了) |
【597条】(期間満了等による使用貸借の終了) 2項:当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において,使用及び収益の目的を定めたときは,使用貸借は,借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。 3項:使用貸借は,借主の死亡によって終了する。 |
規定なし |
【598条】(使用貸借の解除) 2項:当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも契約の解除をすることができる。 3項:借主は,いつでも契約の解除をすることができる。 |
旧法では,使用貸借関係が消滅する事由に関し,契約期間の満了や(契約期間を定めなかった場合における)使用収益の終了等については借用物の返還時期と規定し(旧法§597),他方で,借主の死亡については使用貸借の終了事由と規定していました(旧法§598)。
しかし,使用貸借が終了したからこそ,借用物を返還しなければならないので,契約期間の満了や使用収益の終了等も使用貸借の終了事由の一種であり,その点では,借主の死亡の場合と共通します。
使用貸借の終了 ⇒ 借用物の返還
そこで,新法では,契約期間の満了や使用収益の終了等も,借主の死亡とともに終了事由として並記することにしました。
ただ,旧法§597に定める各事由には,その事由が生じることで当然に使用貸借が終了すると考えるべきものと,その事由が生じても,直ちに使用貸借が終了するわけではなく,当事者の意思表示があってはじめて使用貸借を終了させることが相当なものとがあります。
そこで,新法では,旧法§597及び旧法§599所定の各事由について,当然終了原因と解除原因とに分けて整理し(新法§597,§598),その上で,使用貸借の借主は当該使用貸借が(当然終了原因の発生又は解除により)終了したときには目的物を返還するものであることを使用貸借の意義の中で明瞭にすることにしました(新法§593)。
附属物の収去義務・原状回復義務
新法 | 旧法 |
規定なし |
【599条】(借主による収去等) 2項:借主は,借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。 3項:借主は,借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において,使用貸借が終了したときは,その損傷を原状に復する義務を負う。ただし,その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。 |
附属物の収去義務(1項)
変更点
旧法には,附属物の収去義務について定めた条文はありませんでした。
しかし,旧法下でも,借主が借用物の引渡しを受けた後,これに物を附属させた場合,使用貸借終了時,借主は当該附属物の収去義務を負うと解されていました。
そこで,新法では,この一般的な解釈に従い,借主は,借用物受領後,これに附属させた物がある場合,使用貸借終了時,当該附属物を収去する義務を負う旨の規定が新設されました(新法§599Ⅰ本文)。
ただし,「借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については,」貸主は借主に対して収去義務の履行を請求することができない旨の規定も併せて設けられています(同項Ⅰ但書)。
なお,このような場合も,収去義務の履行不能について借主に帰責事由があり,附属物によって目的物の客観的な価値が低減したときは,その損害の賠償請求をすることが可能です(新法§412の2Ⅱ参照)。
要件事実
原状回復義務(3項)
変更点
新法では,借主が,借用物受領後,これに生じた損傷がある場合,使用貸借終了時,その損傷を原状に復する義務を負うとの規定が新設されました(新法§599Ⅲ本文)。
ただし,当該損傷が借主の帰責事由によらない場合は,借主は原状回復義務を負いません(同項但書)。
なお,賃貸借においては通常損耗や経年劣化については原状回復義務の対象から除外されているのに対し,使用貸借の「損傷」には通常損耗等も含まれる可能性があり,この点については,旧法のときと同様,個々の事案に応じた解釈に委ねられています。
要件事実
確認問題
特になし。