新法では,無効な行為や取り消され無効とみなされた行為に基づいて債務が履行された場合の原状回復義務の効果・範囲が明文化されたり,判例に従い,追認の要件として「追認をする者が取消権を有することを知っていること」も要求されることが明文化されるなどの改正が行われました。
当事者の返還義務
変更点
旧法 | 新法 |
【121条】(取消しの効果) 取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす。ただし,制限行為能力者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。 |
【121条】(取消しの効果) 【121条の2】(原状回復の義務) 2項:前項の規定にかかわらず,無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は,給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては,給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。 3項:第一項の規定にかかわらず,行為の時に意思能力を有しなかった者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても,同様とする。 |
説明
旧法には,無効な行為や取り消されて無効とみなされた行為に基づいて債務が履行された場合に当事者の果たすべき義務について,特別の規定は設けられていませんでしたが,新法では,原則として原状回復義務を負う旨の規定が新設されました(新法§121の2Ⅰ)。この規定は,不当利得の一般規定に対する特則であると考えられています。
例外として,「無効な行為」が贈与契約等の無償行為であって,給付を受けた者が,給付を受けた当時,その行為が無効であること等を知らなかったときには,その返還義務の範囲は「現に利益を受けている限度」にとどまるものとされています(同条Ⅱ)。また,行為時に意思能力を有しなかった者の返還義務の範囲が「現に利益を受けている限度」にとどまる旨の規定も新設されました(同条Ⅲ)。
追認
変更点
旧法 | 新法 |
【124条】 2項:成年被後見人は,行為能力者となった後にその行為を了知したときは,その了知をした後でなければ,追認をすることができない。 3項:前二項の規定は,法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には,適用しない。 |
【124条】 2項:次に掲げる場合には,前項の追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。 |
説明
追認の要件として,判例(大判大正5年12月28日)は,旧法に定めのあった「取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすること」に加え,「追認をする者が取消権を有することを知っていること」も要求していました。そこで,新法では,この判例を踏まえ,追認が,取消権を有することを知った後にしなければその効力を生じない旨を明文化することにしました(新法§124Ⅰ)。
ちなみに,「取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすること」とは,(1)行為能力の制限が解除された後,(2)詐欺の事実に気付いた後,又は(3)強迫による畏怖から脱した後,追認を行うような場合をいいます。
ところで,新法§124Ⅰが設けられたことから,旧法§124Ⅱはこれに吸収され,削除されました。
また,旧法§124Ⅲと新法§124Ⅱは同旨の規定ですが,成年被後見人を除く制限行為能力者が,法定代理人,保佐人又は補助人の同意を得て追認を行う場合も,新法§124Ⅰの適用除外となる場合に加えられました。
要件事実―追認(新法§124Ⅰ)
確認問題〔無効及び取消し〕