【2020年民法改正】時効【勉強ノート】

消滅時効の援用権者(新法§145)

変更点

旧法 新法
【145条】(時効の援用)
時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。
【145条】(時効の援用)
時効は,当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。

説明

 従来,判例(最判昭和43年9月26日,最判昭和48年12月14日)によって,消滅時効を援用することができる「直接利益を受ける者」に当たるとされてきた保証人,物上保証人,第三取得者が「当事者」に含まれることを条文上明確にするために,「当事者」の例示として「保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者」との文言が追加されました(新法§145)

 ちなみに,判例が用いていた「直接利益を受ける者」との基準における直接性基準は実質的に機能していなかったことから,実質に即した「正当な利益を有する者」との文言が用いられることとなりました。かかる表現の変更は,判例の従来の考え方を否定するものではありません。当事者該当性判断においては,従来どおり,他人の財産についての消滅時効を援用することが正当化される程度に,自己の利益が影響を受けるかどうかを考慮することになります。

時効の中断・停止事由(新法§147~152,158~161)

用語変更について

 まず,時効に関する規定の用語が変更されたことについて説明したいと思います。

(1) 「中断」

 旧法では,旧法§147Ⅰ等で,「中断」という用語が用いられていましたが,この「中断」という用語は一義的なものではありませんでした。

 例えば,旧法§147Ⅰ③の「承認」の効果についても,旧法§153の「催告」の効果についても,いずれも「中断」である旨規定されていたにもかかわらず,「承認」には時効を更新させる効果が生ずる一方,「履行の催告」には時効の完成を猶予させる効果しか生じないなど,一つの概念に様々な意味が混在していました。

 そこで,新法では,この「中断」概念を再構成し,一定の事由の発生が時効に及ぼす効果を,「完成猶予」と「更新」という2つの用語を用いて説明することとしました。

 「完成猶予」とは,猶予事由が発生しても時効期間の進行自体は止まらないが,本来の時効期間の満了時期を過ぎても,所定の時期を経過するまでは時効が完成しないという効果を指します。

 他方,「更新」は,更新事由の発生によって進行していた時効期間の経過が無意味なものとなり,新たに零から進行を始めるという効果を指します。

(2) 「停止」

 また,旧法では,旧法§158等で,「停止」という用語も用いられていました。その効果は停止事由の発生によって時効の完成が猶予されることにありましたが,「停止」という表現では,あたかも時効期間の進行自体が途中で止まり,停止事由が消滅した後に残存期間が再度進行するかのような誤解を生みがちであり,その用語から意味内容が理解しにくいものとなっていました。

 そこで,新法では,「停止」についても,その実質に即した「完成猶予」という用語に置き換えられることになりました。

裁判上の請求等(新法§147)

変更点

旧法 新法

【147条】(時効の中断事由)
時効は,次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え,仮差押え又は仮処分
三 承認

【148条】(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)
前条の規定による時効の中断は,その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。

【149条】(裁判上の請求)
裁判上の請求は,訴えの却下又は取下げの場合には,時効の中断の効力を生じない。

【150条】(支払督促)
支払督促は,債権者が民事訴訟法第三百九十二条に規定する期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは,時効の中断の効力を生じない。

【151条】(和解及び調停の申立て)
和解の申立て又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停の申立ては,相手方が出頭せず,又は和解若しくは調停が調わないときは,一箇月以内に訴えを提起しなければ,時効の中断の効力を生じない。

【152条】(破産手続参加等)
破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加は,債権者がその届出を取り下げ,又はその届出が却下されたときは,時効の中断の効力を生じない。

【147条】(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新
1項:次に掲げる事由がある場合には,その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては,その終了の時から六箇月を経過する)までの間は,時効は,完成しない。

一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加

2項:前項の場合において,確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは,時効は,同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

説明

 新法においては,①裁判上の請求,②支払督促,③裁判上の和解・民事調停・家事調停,④破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加のいずれかの事由が生ずると,まず,時効の完成が猶予されます。

 そして,これらの各事由に係る裁判手続において,確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは,各事由の終了まで時効の完成が猶予された上で(新法§147Ⅰ)その事由の終了の時において時効は更新され,時効期間は新たにその進行を始めることになります(同条Ⅱ)

 他方で,確定判決等による権利の確定に至ることなく中途で各事由が終了した場合には時効の更新は生じませんが,その終了の時から6箇月を経過するまでは,引き続き時効の完成が猶予されます(新法§147Ⅰ括弧書)(最判昭和45年9月10日を踏まえた改正)

強制執行等,仮差押え等(新法§148,149)

変更点

旧法 新法

【154条】(差押え,仮差押え及び仮処分)
差押え,仮差押え及び仮処分は,権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは,時効の中断の効力を生じない。

【155条】
差押え,仮差押え及び仮処分は,時効の利益を受ける者に対してしないときは,その者に通知をした後でなければ,時効の中断の効力を生じない。

【148条】(強制執行等による時効の完成猶予及び更新
1項:次に掲げる事由がある場合には,その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては,その終了の時から六箇月を経過する)までの間は,時効は,完成しない。
一 強制執行

二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続

2項:前項の場合には,時効は,同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし,申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は,この限りでない。

【149条】(仮差押え等による時効の完成猶予
次に掲げる事由がある場合には,その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。

一 仮差押え
二 仮処分

説明

1 強制執行等

 新法においては,①強制執行,②担保権の実行,③形式競売,④財産開示手続の各事由が生ずれば,その事由の終了まで,時効の完成が猶予され(新法§148Ⅰ),その上で,その事由の終了の時において時効は更新され,時効期間は新たにその進行を始めます(同条Ⅱ)

 ただし,申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了したときは,時効の更新は生じませんが,その終了の時から6箇月を経過するまでは,引き続き時効の完成が猶予されます(新法§148Ⅰ括弧書)

2 仮差押え等

 新法においては,①仮差押え,②仮処分の各事由があれば,その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は,時効の完成が猶予されます(新法§149)

 旧法と違って,仮差押え等の各事由には,時効の更新の効果はありませんが,仮差押え等に引き続き,本案訴訟を提起することにより,確定判決等によって権利が確定されれば,時効の更新の効果を生じさせることができます(新法§147Ⅰ①)

催告(新法§150)

変更点

旧法 新法
【153条】(催告)
催告は,六箇月以内に,裁判上の請求,支払督促の申立て,和解の申立て,民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立て,破産手続参加,再生手続参加,更生手続参加,差押え,仮差押え又は仮処分をしなければ,時効の中断の効力を生じない。

【150条】(催告による時効の完成猶予
1項:催告があったときは,その時から六箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。

2項:催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は,前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。

説明

 新法においては,(裁判外の)催告があったときは,その時から6箇月を経過するまでの間は,時効の完成は猶予されます(新法§150Ⅰ)

 ただし,催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告が,時効の完成猶予の効力を有しないとの大判大正8年6月30日に従い,新法ではその旨明記されています(同条Ⅱ)。協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても同様です(新法§151Ⅲ後段)

協議を行う旨の合意(新法§151)

変更点

旧法 新法
規定なし

【151条】(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予
1項:権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは,次に掲げる時のいずれか早い時までの間は,時効は,完成しない。

一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは,その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは,その通知の時から六箇月を経過した時

2項:前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は,同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし,その効力は,時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。

3項:催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は,同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても,同様とする。

4項:第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは,その合意は,書面によってされたものとみなして,前三項の規定を適用する。

5項:前項の規定は,第一項第三号の通知について準用する。

説明

1 完成猶予の要件

 新法においては,権利についての協議を行う旨の合意が書面又は電磁的記録によりされた場合は,所定の期間,時効の完成が猶予されます(新法§151)

 時効の完成猶予が認められるためには,単に権利についての協議をしているという事実状態のみでは足りず,問題とされている権利の存否や内容について協議を行う旨の合意を当事者間で行っていることが必要となります(新法§151Ⅰ)

 また,協議を行う旨の合意は,当事者双方の協議意思が現れた書面又は電磁的記録によってされなければなりません(同項・同条Ⅳ)

 このように書面等による合意を要求するのは,事後的に時効の完成猶予がされたか否か等をめぐり紛争が生ずる事態を避けるためです。

2 再度の合意

 催告によって時効の完成が猶予されている間に,協議を行う旨の合意がなされても,時効の完成猶予の効力を有しません(新法§151Ⅲ前段)。また,協議を行う旨の合意によって時効の完成が猶予されている間に催告がされても,その催告は完成猶予の効力を有しません(同項後段)

 これに対し,協議を行う旨の合意によって時効の完成が猶予されている間に,再度,書面又は電磁的記録で協議を行う旨の合意がされれば,その合意の時点から,新法§151Ⅰ所定の期間,時効の完成が更に猶予されることになります(同条Ⅱ本文)

 ただし,協議を行う旨の合意による時効の完成猶予については,時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通算して5年を超えることができません(新法§151Ⅱ但書)。当事者の合意のみで,長期間,法律関係を不確定な状態に置くことは,法律関係の安定を企図する時効制度の趣旨に反するため,このような上限が設けられました。

承認(新法§152)

変更点

旧法 新法
【147条】(再掲)
時効は,次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え,仮差押え又は仮処分

三 承認

【152条】(承認による時効の更新
1項:時効は,権利の承認があったときは,その時から新たにその進行を始める。

2項:前項の承認をするには,相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。

説明

 実質的な改正はありません(「承認」=時効の「更新」)。

未成年者等,夫婦間の権利,相続財産,天災等(新法§158~161)

変更点

旧法 新法

【158条】(未成年者又は成年被後見人と時効の停止
1項:時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは,その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は,その未成年者又は成年被後見人に対して,時効は,完成しない。

2項:未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父,母又は後見人に対して権利を有するときは,その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は,その権利について,時効は,完成しない。

【158条】(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予
1項:時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは,その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は,その未成年者又は成年被後見人に対して,時効は,完成しない。

2項:未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父,母又は後見人に対して権利を有するときは,その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は,その権利について,時効は,完成しない。

【159条】(夫婦間の権利の時効の停止
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については,婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
【159条】(夫婦間の権利の時効の完成猶予
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については,婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
【160条】(相続財産に関する時効の停止
相続財産に関しては,相続人が確定した時,管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
【160条】(相続財産に関する時効の完成猶予
相続財産に関しては,相続人が確定した時,管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
【161条】(天災等による時効の停止
時効の期間の満了の時に当たり,天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは,その障害が消滅した時から二週間を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
【161条】(天災等による時効の完成猶予
時効の期間の満了の時に当たり,天災その他避けることのできない事変のため第百四十七条第一項各号又は第百四十八条第一項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは,その障害が消滅した時から三箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。

説明

 旧法§158~160に関しては,「停止」という用語が「完成猶予」に改められていますが,実質的な改正はありません。

 旧法§161に関しては,その完成猶予期間が2週間から3か月へと伸長されるなどの改正がなされています(新法§161)。完成猶予期間が2週間しか認められないのは,我が国で発生した大震災における経験に照らして短すぎたためです。

職業別短期消滅時効・商事消滅時効制度の廃止とこれに伴う消滅時効の起算点・期間の見直し(新法166,168)

職業別短期消滅時効・商事消滅時効制度の廃止

変更点

旧法 新法
【170条】(三年の短期消滅時効)
次に掲げる債権は,三年間行使しないときは,消滅する。ただし,第二号に掲げる債権の時効は,同号の工事が終了した時から起算する。
一 医師,助産師又は薬剤師の診療,助産又は調剤に関する債権
二 工事の設計,施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
削除
【171条】
弁護士又は弁護士法人は事件が終了した時から,公証人はその職務を執行した時から三年を経過したときは,その職務に関して受け取った書類について,その責任を免れる。
削除
【172条】(二年の短期消滅時効)
1項:弁護士,弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は,その原因となった事件が終了した時から二年間行使しないときは,消滅する。
2項:前項の規定にかかわらず,同項の事件中の各事項が終了した時から五年を経過したときは,同項の期間内であっても,その事項に関する債権は,消滅する。
削除
【173条】
次に掲げる債権は,二年間行使しないときは,消滅する。
一 生産者,卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二 自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
三 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育,衣食又は寄宿の代価について有する債権
削除
【174条】(一年の短期消滅時効)
次に掲げる債権は,一年間行使しないときは,消滅する。
一 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
二 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
三 運送賃に係る債権
四 旅館,料理店,飲食店,貸席又は娯楽場の宿泊料,飲食料,席料,入場料,消費物の代価又は立替金に係る債権
五 動産の損料に係る債権
削除
【商法522条】(商事消滅時効)
商行為によって生じた債権は,この法律に別段の定めがある場合を除き,五年間行使しないときは,時効によって消滅する。ただし,他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは,その定めるところによる。
削除

説明

 時効制度を単純明快なものにするなどの目的のために,旧法§170~174,旧商法§522が削除されました。

消滅時効の起算点・期間の見直し

変更点

旧法 新法

【166条】(消滅時効の進行等)
1項:消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する。

2項:前項の規定は,始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために,その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし,権利者は,その時効を中断するため,いつでも占有者の承認を求めることができる。

【167条】(債権等の消滅時効)
1項:債権は,十年間行使しないときは,消滅する。

2項:債権又は所有権以外の財産権は,二十年間行使しないときは,消滅する。

【166条】(債権等の消滅時効)
1項:債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
一  債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二  権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

2項:債権又は所有権以外の財産権は,権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは,時効によって消滅する。

3項:前二項の規定は,始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために,その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし,権利者は,その時効を更新するため,いつでも占有者の承認を求めることができる。

説明

1 改正趣旨

 「権利を行使することができることを知った時」から5年という主観的起算点からの消滅時効が新たに追加されました(新法§166Ⅰ)

 前述のとおり,職業別短期消滅時効制度及び商事消滅時効制度が廃止されました。仮にこれまで職業別短期消滅時効等が適用されていた債権に,原則的な消滅時効期間である10年の消滅時効が適用されるとすれば,領収書の保存費用等,弁済の証拠保存のための費用や負担が増加したり,従来の実務運用の安定が害されたり,実務上,大きな不利益がもたらされることが想定されます。

 だからといって,消滅時効期間を10年よりも短期にすれば,その期間の短さ次第では,不当利得に基づく債権や安全配慮義務違反に基づく損害賠償債権等のように,権利行使が可能であることを容易に知ることができない債権について,債権者が大きな不利益を被る可能性があります。

 そこで,新法では,両要請の調整を図り,旧法の「権利を行使することができる時」から10年という客観的起算点からの消滅時効を維持した上で,「権利を行使することができることを知った時」から5年という主観的起算点からの消滅時効を新たに追加し,そのいずれかが完成した場合には時効により債権が消滅することとしたのです。

2 「債権者が権利を行使することができることを知った」の意義

 「債権者が権利を行使することができることを知った」というためには,①権利の発生原因についての認識のほか,②権利行使の相手方である債務者を認識することが必要であると解されています。

要件事実

定期金債権・定期給付債権の消滅時効

変更点

旧法 新法

【168条】(定期金債権の消滅時効)
1項:定期金の債権は,第一回の弁済期から二十年間行使しないときは,消滅する。最後の弁済期から十年間行使しないときも,同様とする。

2項:定期金の債権者は,時効の中断の証拠を得るため,いつでも,その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。

【168条】(定期金債権の消滅時効)
1項:定期金の債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき。
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から二十年間行使しないとき。

2項:定期金の債権者は,時効の更新の証拠を得るため,いつでも,その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。

【169条】(定期給付債権の短期消滅時効)
年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は,五年間行使しないときは,消滅する。
削除

説明

1 定期金債権について

 定期金債権についても,主観・客観の起算点に基づく二重の消滅時効期間が設けられました(新法§168Ⅰ)

2 定期給付債権について

 定期給付債権の時効期間に関する旧法§169が削除され,定期給付債権については,消滅時効の一般的な規律(新法§166Ⅰ)が適用されることになりました。

人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間(新法§167,724の2)

変更点

旧法 新法
規定なし 【167条】(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については,同号中「十年間」とあるのは,「二十年間」とする。
規定なし 【724条の2】(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については,同号中「三年間」とあるのは,「五年間」とする。

説明

1 債務不履行に基づく損害賠償請求権

 人の生命・身体に関する利益は,一般に,財産的な利益等の他の利益と比べて保護すべき度合いが強いこと,生命・身体に深刻な被害が生じた債権者に時効完成の阻止に向けた措置を速やかにとるよう期待できないことから,人の生命・身体の侵害による債務不履行に基づく損害賠償請求権については,客観的起算点からの時効期間を原則的な10年から20年へと伸長しています(新法§167)

2 不法行為に基づく損害賠償請求権

 1と同様の理由から,人の生命・身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権についても,主観的起算点からの時効期間を原則的な3年から5年へと伸長しています(新法§724)

3 まとめ

 これにより,人の生命・身体の侵害による債務不履行に基づく損害賠償請求権についても,人の生命・身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権についても,主観的起算点からの時効期間が5年客観的起算点からの時効期間が20年となりました。

  起算点 時効期間
債務不履行に基づく損害賠償請求権 権利を行使することができることを知った時 5年
権利を行使することができる時 10年
不法行為に基づく損害賠償請求権 損害及び加害者を知った時 3年
不法行為時 20年
生命・身体の侵害による損害賠償請求権(債務不履行・不法行為共通) 権利を行使することができること/損害及び加害者を知った時 5年
権利を行使することができる時 20年

不法行為の損害賠償請求権の長期の権利消滅期間(新法§724)

変更点

旧法 新法
【724条】(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限
不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは,時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも,同様とする。
【724条】(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
不法行為による損害賠償の請求権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

説明

 旧法では,旧法§724後段の長期の権利消滅期間は除斥期間を定めたものであると解されていました。

 しかし,そうだとすると,㋐時効中断・停止の規定の適用がないため,期間の経過による権利の消滅を阻止することができない,㋑除斥期間の適用に対して,信義則違反や権利濫用に当たると主張することができない等の不都合がありました。そのため,判例の中には,旧法§160の法意に照らし,除斥期間満了後も6箇月間の時効完成猶予を認めることで,かかる不都合を乗り越えようとするものもありました(最判平成21年4月28日)

 そこで,新法では,この長期の権利消滅期間を除斥期間ではなく,消滅時効期間であると解することにしました(新法§724②)

 これにより,ⓐ被害者において,時効の更新・完成猶予の規定を用いることにより,加害者に対する損害賠償請求権の時効による消滅を防ぐための措置をとることが可能なりました。さらに,ⓑ消滅時効期間の経過により権利が消滅したという主張が加害者側からされたとしても,裁判所は,個別の事案における具体的な事情に応じて,加害者側からの時効の援用の主張が信義則違反や権利濫用になると判断することが可能になることから,被害者の救済を図る余地が広がりました。

確認問題〔時効〕

新法に基づいて回答してください!(全10問)

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