【2020年民法改正】消費貸借④―貸主の担保責任【勉強ノート】

利息付きの消費貸借における貸主の担保責任

旧法 新法

【590条】(貸主の担保責任)
1項:利息付きの消費貸借において,物に隠れた瑕疵があったときは,貸主は,瑕疵がない物をもってこれに代えなければならない。この場合においては,損害賠償の請求を妨げない。

2項:(省略)

1項削除

 旧法§590Ⅰは,利息付きの消費貸借の目的物に隠れた瑕疵がある場合に,貸主は借主に対して瑕疵がない代替物の引渡義務や損害賠償義務を負う旨規定しています。

 ところが,新法では,引き渡された目的物が売買契約の内容に適合しない場合に,売主が,追完義務として代替物の引渡義務等や損害賠償義務等を負う旨の規定が新設されており(新法§562,§564),かかる売主の追完義務は,新法§559により有償契約である利息付き消費貸借にも準用されます

 すると,旧法§590Ⅰと規定内容が重複してしまいます。

 そこで,新法では,旧法§590Ⅰを削除することにしました。

 新法§562や新法§564の詳細については,下掲のページをご覧ください。

無利息の消費貸借における貸主の担保責任

旧法 新法

【590条】(貸主の担保責任)
1項:(省略)

2項:無利息の消費貸借においては,借主は,瑕疵がある物の価額を返還することができる。この場合において,貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは,前項の規定を準用する。

【590条】(貸主の引渡義務等)
1項:第五百五十一条の規定は,前条第一項の特約のない消費貸借について準用する。

2項:(省略)

 旧法§590Ⅱは,無利息の消費貸借において,貸主は,借主に対し,引き渡した消費貸借の目的物に瑕疵等があったとしても,担保責任を負いませんが,貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは,損害賠償等の責任を負うとしていました。

 しかし,貸主が担保責任を負うべきかどうかは,貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったかどうかではなく,当事者間で引き渡すべき目的物の品質等についてどのような合意がなされていたかに求めるべきです。

 すなわち,当事者間で引き渡すべき目的物の品質等について明瞭に合意がされ,その目的物の品質等が定まっている場合には,その定めに適合しない場合には,貸主は借主に対して担保責任を負うべきですし,一方,品質等について明瞭な合意を特にしていない場合には,仮に客観的な瑕疵があると判断されるとしても,それを貸主が知りながら告げないだけで損害賠償債務が発生するというのは行き過ぎと考えられます。

 そこで,新法では,以下のような改正を行うことにしました。

 無利息の消費貸借と贈与がいずれも無償契約である点で当事者の状況が共通することから,新法§590Ⅰが,無利息の消費貸借の貸主の担保責任について,新法§551の贈与者の引渡義務等の規定を準用しています。

 これにより,無利息の消費貸借の貸主は,原則として,消費貸借の目的物を,消費貸借の目的として特定した時の状態で引き渡せば足り,これと異なる内容の合意がされていたことが立証された場合に限り,その内容に従って貸主は引渡義務を負い,その内容に応じた履行の追完や損害賠償等の責任も負います(新法§590Ⅰ・§551Ⅰ)。

新法§551(贈与者の引渡義務等)

 贈与者は,贈与の目的である物又は権利を,贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し,又は移転することを約したものと推定する。
 負担付贈与については,贈与者は,その負担の限度において,売主と同じく担保の責任を負う。

 新法§551の詳細については,下掲のページもご覧ください。

借主の返還義務

旧法 新法

【590条】(貸主の担保責任)
1項:(省略)

2項:無利息の消費貸借においては,借主は,瑕疵がある物の価額を返還することができる。この場合において,貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは,前項の規定を準用する。

【590条】(貸主の引渡義務等)
1項:(省略)

2項:前条第一項の特約の有無にかかわらず,貸主から引き渡された物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは,借主は,その物の価額を返還することができる。

変更点

 旧法§590Ⅱ前段は,無利息の消費貸借において,目的物に瑕疵があったときは,借主は,瑕疵のある物の返還に代えて,その物の価額を返還することができるとしていました。

 これに対し,新法§590Ⅱは,利息の特約の有無にかかわらず,貸主から引き渡された物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは,借主は,その物の価額を返還することができるとして,同項の適用対象を無利息の消費貸借に限定していません

趣旨

 新法§590Ⅱの適用対象を無利息の消費貸借に限定せず,利息付き消費貸借にまで拡張したのは,次の考慮によるものです。

 そもそも旧法§590Ⅱ前段の趣旨は,目的物に瑕疵があるときに同様の瑕疵がある物を調達することは,現実的に困難であるため,借主が,瑕疵のある物の返還に代えて,その物の価額を返還することを認めることにあります。

 しかし,同様の瑕疵がある物を調達することの困難性は,無利息の消費貸借であろうが利息付きの消費貸借であろうが変わりません。

 したがって,旧法§590Ⅱ前段の適用範囲を無利息の消費貸借に限定することに合理性はなく,旧法下では,利息付き消費貸借についても,その目的物に瑕疵があったときは,借主は,瑕疵のある物の返還に代えて,その物の価額を返還することができると解されていました。

 そこで,今回の改正では,このような実情を新法に反映させることにしたのです。

確認問題〔消費貸借④―貸主の担保責任〕

新法に基づいて回答してください!(全3問)

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