消費貸借の目的物の期限前の返還
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【591条】(返還の時期) 2項:借主は,いつでも返還をすることができる。 |
【591条】(返還の時期) 2項:借主は,返還の時期の定めの有無にかかわらず,いつでも返還をすることができる。 3項:当事者が返還の時期を定めた場合において,貸主は,借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは,借主に対し,その賠償を請求することができる。 |
変更点
旧法§591Ⅱでは,当事者が返還時期を定めた場合において,借主が,返還時期が到来する前においても目的物を返還することができるかどうかは,規定上明らかではありませんでした。
旧法§136Ⅱ但書が,期限の利益を放棄することによって相手方の利益を害することができないと定めていたから,返済時期のある利息付き消費貸借について,借主が期限の利益を放棄して期限前弁済をすることができるか,期限前弁済が許されるとして,借主は,貸主に生じる損害を賠償する責任を負うことになるのか,条文からはよく分からなかったんだ。
それを新法§591Ⅱでは,借主は,返還時期の定めの有無にかかわらず,いつでも目的物を返還することができることを明確にしました。
このように当事者が返還時期を定めた場合においても,借主がいつでも目的物を返還することができることを明らかにしたのには,次のような考慮があります。
このように返還期限到来前であっても,借主に目的物の返還を認め,目的物の返還によって貸主に損害が発生した場合には,借主に損害賠償義務を負わせることによって,貸主と借主の公平を図ることにしたのです(新法§591Ⅲ)。
そして,ここでの損害には,当然には返還時から弁済期までの利息相当額は含まれず,通常は,貸主が借主への資金調達のために特別に支出した費用等が損害として認められるのみであると考えられています。
もっとも,事業者間の取引における高額の貸付けのように,期限前に返還を受けたとしても金銭を再運用することが実際上困難であり,他方で返済期限までの利息相当額を支払ってもらうことの代わりとして利率が低く抑えられていたようなケースにおいては,返還時から弁済期までの利息相当額の賠償請求が認められる余地があると考えられています。
要するに,返還時から弁済期までの利息相当額の賠償を請求することができるかどうかは,返済を受けた資金を他に転用することができるかどうかを個別具体的な事案に即して検討することを通じて決せられます。
要件事実
確認問題〔消費貸借⑤―期限前の返還〕
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