【2020年民法改正】弁済⑤―弁済供託【勉強ノート】

改正のポイント

 弁済供託の基本的効果を明定したり,弁済供託や自助売却ができる場面を,判例や実務の運用等を踏まえ,見直す改正が行われています。

弁済供託の要件・効果

旧法 新法
【494条】(供託)
債権者が弁済の受領を拒み,又はこれを受領することができないときは,弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は,債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも,同様とする。

【494条】(供託)
1項:弁済者は,次に掲げる場合には,債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては,弁済者が供託をした時に,その債権は,消滅する。
一  弁済の提供をした場合において,債権者がその受領を拒んだとき。
二   債権者が弁済を受領することができないとき。

2項:弁済者が債権者を確知することができないときも,前項と同様とする。ただし,弁済者に過失があるときは,この限りでない。

相違点

 旧法§494と新法§494は,3つの場面で弁済の目的物を供託することができると定めている点では共通ですが,下表のとおり,その場面が微妙に異なっているものがあります。

旧法§494 新法§494
①債権者が弁済の受領を拒んだとき 弁済者が弁済の提供をした場合において,債権者が弁済の受領を拒んだとき
②債権者が弁済を受領することができないとき ②債権者が弁済を受領することができないとき
③弁済者が過失なく債権者を確知することができないとき ③弁済者が債権者を確知することができないとき。ただし,弁済者に過失があるときは,この限りでない。

 ①~③のうち,②は同じで,①と③が微妙に異なっています。

 以下,①と③の違いについて説明します。

①の違いについて

 新法§494Ⅰ①では,旧法§494前段の「債権者が弁済の受領を拒んだとき」に「弁済の提供をした場合において」との文言が加えられています。

 これは,旧法§494前段の当該要件を充足するためには,受領拒絶に先立って,弁済者が債権者に対して弁済の提供をすることが必要と判示した判例(大判大正10年4月30日)を踏まえたものです。

 ちなみに,この改正は,口頭の提供をしても債権者が受け取らないことが明らかな場合には,弁済の提供をしなくとも供託することができるとする判例(大判大正11年10月25日)及び供託実務を排斥する趣旨ではないとされています。

③の違いについて

 旧法§494後段では,「弁済者が過失なく債権者を確知することができないとき」として,無過失要件と不確知要件とが一文に記載されていましたが,新法§494Ⅱでは,「弁済者が債権者を確知することができないときも,前項と同様とする。ただし,弁済者に過失があるときは,この限りでない。」として,不確知要件は本文に,過失要件は但書に分けられました。

 これは,債権者が,弁済者に過失があることにつき主張立証責任を負うことを明確にする変更です。

 債権者不確知の典型事例は,債権者が死亡し,相続人が誰か分からない場合や,債権が二重譲渡されたが通知の先後が不明であるため優先する譲受人がどちらか分からない場合など,弁済者のあずかり知らない事情によって引き起こされるものです。

 そうであれば,弁済者ではなく,債権者に弁済者有過失の主張立証責任を負わせるのが公平であり,そのことを条文上も明確にした方がよいことから,上記のような変更が加えられたのです。

弁済供託の効果

 また,大判大正9年6月2日を踏まえ,「弁済者が供託をした時に,その債権は,消滅する。」として,弁済供託の効果は債権の消滅であり,その効果発生時期も弁済供託時であることが明確にされました(新法§494Ⅰ柱書後段)。

自助売却の要件

旧法 新法
【497条】(供託に適しない物等)
弁済の目的物が供託に適しないとき,又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは,弁済者は,裁判所の許可を得て,これを競売に付し,その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも,同様とする。
【497条】(供託に適しない物等)
弁済者は,次に掲げる場合には,裁判所の許可を得て,弁済の目的物を競売に付し,その代金を供託することができる。
一   その物が供託に適しないとき。
二   その物について滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき。
三   その物の保存について過分の費用を要するとき。
四   前三号に掲げる場合のほか,その物を供託することが困難な事情があるとき。

 裁判所の許可を得て,弁済の目的物を競売に付し,その代金を供託することを自助売却といいます。

 そして,この自助売却が認められる場合として,旧法§497は,次の3つの場合を挙げていました。

  • ❶ 弁済の目的物が供託に適しない場合
  • ❷ 弁済の目的物について滅失若しくは損傷のおそれがある場合
  • ❸ 弁済の目的物の保存について過分の費用を要する場合

 しかし,自助売却を認める必要があるのは,これらの場合に限られず,市場での価格の変動が激しく,放置しておけば価値が暴落し得るものについても,自助売却を認める必要があります。

 そこで,❷について,「滅失,損傷その他の事由による価格の低下のおそれがあるとき」として,このような市場価格の変動等による価値暴落のおそれがある場合も自助売却が可能であることを明らかにしました(新法§497②)。

 さらに,新法では,「前三号に掲げる場合のほか,その物を供託することが困難な事情があるとき」も自助売却が可能であるとされています(新法§497④)。

 これについては,金銭や有価証券以外の物品を供託所で保管したり,裁判所が適当な保管者を選任する(民§495Ⅱ)ことが難しいという実情から,弁済の目的物を保管する供託所が存在しないような場合が想定されています。

弁済供託の効果

旧法 新法
【498条】(供託物の受領の要件)
債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には,債権者は,その給付をしなければ,供託物を受け取ることができない。

【498条】(供託物の還付請求等)
1項:弁済の目的物又は前条の代金が供託された場合には,債権者は,供託物の還付を請求することができる。

2項:債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には,債権者は,その給付をしなければ,供託物を受け取ることができない。

 弁済供託の基本的な効果である還付請求権の発生に関して,弁済の目的物や自助売却により得られた代金が供託された場合には,債権者は,供託物の還付を請求することができる旨を明文化しています(新法§498Ⅰ)。

確認問題〔弁済⑤―弁済供託〕

新法に基づいて回答してください!(全3問)

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