本稿では,経過措置に関する規定内容を簡潔にまとめます。規定内容に関する趣旨や理由については,別稿で説明を行います。
新法の施行期日
Q.新法の施行日はいつ?
原則として,
2020年4月1日
「民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(平成29年政令第309号)
です。
ただし,例外があります。例外は以下のとおりです(詳細はリンク先をご覧ください)。
・保証(公証人による保証意思確認手続の創設関係)の規定の経過措置(附則§21Ⅱ,Ⅲ) | 2020年3月1日 |
・定型約款に関する規定の経過措置(附則§33Ⅲ) | 2018年4月1日 |
新法適用の基準時等
Q.新法の施行日前に締結された契約や,すでに発生していた債権債務についても,新法が適用されるの?
原則
原則として,㋐新法の施行日前に締結された契約や㋑施行日前に生じた債権債務,㋒施行日前に発生原因が生じていた債権債務には旧法が適用されます(附則§10Ⅰ,§17Ⅰ等)。
すなわち,新法適用の原則的な基準時は,㋐契約締結日や㋑債権債務発生時,㋒債権債務の発生原因の発生時です。
例外
しかし,新法を適用しても,取引等の当事者の予測を害さず,かつ,法律関係の明確化・安定化の必要性が高い場合等には,例外的に施行日前に締結された契約等にも新法が適用されます。
以下に掲げるものについては,施行日前に契約が締結される等していたとしても,新法の施行日よりも後に以下の基準時が到来しておれば,新法によって処理される(逆に,施行日後に契約が締結される等していたとしても,施行日前に以下の基準時が到来しておれば,旧法によって処理される)等しています。
基準時・例外ルール等 | 根拠 | |
制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人として行為した場合 | 基準時=代理行為時 | 附則§3 |
代理 | 基準時=代理権の発生原因の発生時 | 附則§7Ⅰ |
時効の中断・停止 | 基準時=時効の中断・停止の原因となる事由の発生時点 | 附則§10Ⅱ,Ⅲ |
法定利率 | 基準時=最初の利息の発生時 | 附則§15Ⅰ |
遅延損害金 | 基準時=履行遅滞時 | 附則§17Ⅲ |
中間利息の控除 | 基準時=中間利息の控除の対象となる損害賠償請求権の発生時 | 附則§17Ⅱ |
債権者代位権 | 基準時=被代位債権の発生時 | 附則§18Ⅰ |
詐害行為取消権 | 基準時=詐害行為時 | 附則§19 |
債権譲渡 | 基準時=譲渡の原因である法律行為が行われた時点 (譲渡対象の債権の発生時ではない) |
附則§22 |
弁済の充当 | 基準時=弁済時 | 附則§25Ⅱ |
相殺の充当 | 基準時=相殺の意思表示時 | 附則§26Ⅳ |
差押えを受けた債権を受働債権とする相殺 | 基準時=自働債権の発生原因の発生時 | 附則§26Ⅲ |
定型約款 | 施行日前に締結された定型取引に係る契約にも新法が適用されるが,旧法の規定により生じた効力は妨げられない。 ただし,契約関係から離脱できない契約当事者の一方が施行日前日までに反対の意思表示をした場合は,新法の適用が排除され,旧法が適用される。 |
附則§33 |
賃借人による妨害停止等請求権 | 施行日以後に賃借不動産の占有を第三者が妨害し,又は賃借不動産を第三者が占有しておれば,新法を適用。 | 附則§34Ⅲ |
一般不法行為による損害賠償請求権の長期消滅時効期間 | 施行日に旧法に基づく除斥期間が経過していなければ,施行日後は新法を適用。 | 附則§35Ⅰ |
人の生命・身体侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権の主観的起算点からの消滅時効期間 | 施行日に旧法に基づく3年の時効が完成していなければ,施行日後は新法を適用し,時効期間を5年だったものと扱う。 | 附則§35Ⅱ |
施行日後の契約の更新
Q.新法の施行日前に締結された契約について,施行日以後にこれが更新された場合には,新法が適用されるの?
当事者の合意に基づいて契約の更新が行われた場合には,更新後の契約には,新法が適用されます。
これに対し,法律の規定に基づいて契約が更新された場合については,その更新が当事者間で黙示の合意がなされたことに根拠を求めている場合(ex. 新法§619Ⅰ)には,更新後の契約には新法が適用されます。
一方,その更新が,法定更新(ex. 借地借家法§26に基づく法定更新,労働契約法§19に基づく有期労働契約の更新)のように当事者の意思に基づかない場合(新法)には,更新後の契約には旧法が適用されます。
要するに,当事者において,契約更新のタイミングで,更新後の契約に新法が適用されるとの期待が存在しているか否かで場合分けされています。
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