敷金の基本的事項
旧法 | 新法 |
規定なし |
【622条の2】 2項:賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において,賃借人は,賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。 |
旧法には,敷金の定義や,敷金返還債務の発生時期,返還すべき金額等の敷金に関する基本的な規律を定めた規定が存在しなかったため,新法では,これらを明文化しました(新法§622の2)。
これらの具体的内容は次のとおりです。
敷金の定義
いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭。
敷金は,「保証金」とか「権利金」等の別称が付けられていることも多いです。
また,「賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務」の具体例としては,賃料債務のほか,原状回復に係る債務,用法遵守義務・増改築禁止条項・転貸借禁止条項等の違反に基づく損害賠償債務等が挙げられます。
敷金返還債務の発生時期
敷金返還債務の発生時期として,判例(最判昭和48年2月2日,最判昭和53年12月22日)に従い,次の2つの場合を規定しました。
これにより,敷金返還債務と賃借物の明渡債務は,(特約のない限り,)同時履行の関係に立たず,また,敷金返還請求権は,(特約のない限り,)目的不動産の明渡しが完了するまで具体的に発生しないことが明らかになりました。
返還すべき金額
返還すべき敷金の額についても,前掲判例に従い,受け取った敷金の金額からそれまでに賃貸借に基づいて生じた金銭債務の額を控除した残額とされています。
したがって,この当然控除によって,賃貸人は,相殺その他の特別の意思表示を要することなく,賃借人の他の債権者に優先して賃借人に対する債権の弁済を受けることが可能となります。
敷金の充当
賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しない場合に,賃貸人が,賃貸借期間中に敷金をその債務の弁済に充当することができるかどうかに関して,大判昭和5年3月10日に従い,積極に解する旨明らかにしています(新法§622の2Ⅱ前段)。
他方,賃借人から,賃貸借期間中に,賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充当するよう請求することができるかどうかに関しては,同判例に従い,消極に解する旨明らかにしています(同項後段)。
契約書レビュー
敷金に関する改正事項は,旧法下での判例実務を踏まえたものなので,基本的に契約書の条項を見直す必要はないと考えられます。
確認問題
特になし。