本稿では,次のサンプル条項を例に,契約解除等に関する条項の修正方法を検討します。
第10条(契約の解除及び期限の利益の喪失)
1.当事者は,相手方が次の各号のいずれかに該当する場合には,相手方の責めに帰すべき事由の有無にかかわらず,何らの催告を要せず,直ちに本契約又は個別契約を解除することができる。この場合,解除者が相手方に対して損害の賠償を請求することを妨げない。また,相手方の解除者に対する債務は,何らの催告を要することなく,直ちに期限の利益を喪失する。
⑴本契約又は個別契約に違反した場合において,当事者が●日以上の期間を定めて相手方にその解消を催告したにもかかわらず,その期間内に解消されないとき。
⑵債務の全部又は重要な一部の履行が不能であるとき。
⑶支払不能又は支払停止の状態に陥ったとき。
⑷自ら振り出し若しくは引き受けた手形若しくは小切手の不渡り又は手形交換所若しくは電子債権記録機関による取引停止処分があったとき。
⑸強制執行,仮差押え,仮処分,若しくは競売の申立て,又は公租公課の滞納処分を受けたとき。
⑹破産手続開始,再生手続開始,更生手続開始,特別清算手続開始の申立てを行ったとき若しくは申立てを受けたとき又は任意整理の表明を行ったとき。
⑺監督官庁から営業の停止,許可の取消し等の処分を受けたとき。
⑻解散,会社分割,事業譲渡又は合併の決議をしたとき。
⑼資産又は信用状態に重大な変化が生じ,本契約又は個別契約に基づく債務の履行が困難になるおそれがあると認められるとき。
⑽当事者間の信頼関係が著しく損なわれたとき。
⑾買主の責めに帰すべき事由によらずに第7条(危険負担)第1項に規定する滅失等が生じ,これにより売主がその債務を履行することができなくなったとき。
⑿前各号に準じる事由が発生したとき。
2.前項各号に掲げる事由の発生が,解除をしようとする当事者の責めに帰すべき事由による場合には,当事者は,前項の規定による本契約又は個別契約の解除をすることができない。
民法改正対応
2020年民法改正では,契約解除に関する規定が改正されました(新民法§541~§543)。
そこで,契約書における解除条項についても,修正の必要が生じています。
まず,契約解除に関する民法改正のポイントを挙げます。
詳細な改正の解説については,以下に掲げるページをご覧ください。
そこで,これらの改正点を契約書に反映させることが考えられます。
❶ 債務者の帰責事由の不要化
必須とまでは言えませんが,契約解除に債務者の帰責事由の存在を要するか否かという解釈上の争いが発生することを予防するために以下のように,「相手方の責めに帰すべき事由の有無にかかわらず」という文言を挿入することが考えられます。
第10条(契約の解除及び期限の利益の喪失)
1.当事者は,相手方が次の各号のいずれかに該当する場合には,相手方の責めに帰すべき事由の有無にかかわらず,何らの催告を要せず,直ちに本契約又は個別契約を解除することができる。この場合,解除者が相手方に対して損害の賠償を請求することを妨げない。
(以下略)
❷ 債権者の帰責事由による解除の制限
債務不履行につき債権者に帰責事由がある場合にまで債権者に契約解除を認めるのは,当事者の公平に悖ることから,このような場合には契約解除が制限されるに至りました。
そこで,このような改正を以下のように解除条項に反映させることが考えられます。
第15条(契約の解除及び期限の利益の喪失)
1.(省略)
2.前項各号に掲げる事由の発生が,解除をしようとする当事者の責めに帰すべき事由による場合には,当事者は,前項の規定による本契約又は個別契約の解除をすることができない。
もっとも,契約の拘束力からの解放を重視し,2項のような規定を設けず,損害賠償請求等の金銭的解決によることも考えられます。
その場合は,解釈上の争いを避けるため,次のように,債権者に帰責事由があっても,契約解除を行える旨を明確にしておくべきです。
第10条(契約の解除及び期限の利益の喪失)
1.当事者は,相手方が次の各号のいずれかに該当する場合には,当事者双方の責めに帰すべき事由の有無にかかわらず,何らの催告を要せず,直ちに本契約又は個別契約を解除することができる。この場合,解除者が相手方に対して損害の賠償を請求することを妨げない。
(以下略)
❸ 不履行軽微な場合の解除の制限
債務不履行が軽微といっても,どのような不履行が軽微なのか必ずしも明らかではありません。
そこで,解釈上の争いの発生を防ぐため,いかなる不履行が軽微な不履行なのかを契約書上明確にすることが考えられます。
その他の見直すべきポイント
解除条項の無催告解除に関する条項には,次のように解除事由が列挙されることが多いです。
第10条(契約の解除及び期限の利益の喪失)
1.当事者は,相手方が次の各号のいずれかに該当する場合には,相手方の責めに帰すべき事由の有無にかかわらず,何らの催告を要せず,直ちに本契約又は個別契約を解除することができる。この場合,解除者が相手方に対して損害の賠償を請求することを妨げない。また,相手方の解除者に対する債務は,何らの催告を要することなく,直ちに期限の利益を喪失する。
⑴本契約又は個別契約に違反した場合において,当事者が●日以上の期間を定めて相手方にその解消を催告したにもかかわらず,その期間内に解消されないとき。
⑵債務の全部又は重要な一部の履行が不能であるとき。
⑶支払不能又は支払停止の状態に陥ったとき。
⑷自ら振り出し若しくは引き受けた手形若しくは小切手の不渡り又は手形交換所若しくは電子債権記録機関による取引停止処分があったとき。
⑸強制執行,仮差押え,仮処分,若しくは競売の申立て,又は公租公課の滞納処分を受けたとき。
⑹破産手続開始,再生手続開始,更生手続開始,特別清算手続開始の申立てを行ったとき若しくは申立てを受けたとき又は任意整理の表明を行ったとき。
⑺監督官庁から営業の停止,許可の取消し等の処分を受けたとき。
⑻解散,会社分割,事業譲渡又は合併の決議をしたとき。
⑼資産又は信用状態に重大な変化が生じ,本契約又は個別契約に基づく債務の履行が困難になるおそれがあると認められるとき。
⑽当事者間の信頼関係が著しく損なわれたとき。
⑾買主の責めに帰すべき事由によらずに第7条(危険負担)第1項に規定する滅失等が生じ,これにより売主がその債務を履行することができなくなったとき。
⑿前各号に準じる事由が発生したとき。
2.(省略)
そこで,列挙事由が必要十分なものかを見直すことが考えられます。
なお,列挙事由としては,次のものが掲げられることが多いようです(滝川宜信「取引基本契約書の作成と審査の実務〔第6版〕」(民事法研究会・2019年)256頁)。
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