はじめに
本稿では,匿名掲示板において,自己(依頼者)の権利を侵害する内容の投稿(以下「権利侵害投稿」といいます。)を行った者を特定する方法について解説します。
投稿者を特定する手段としては,アクセスプロバイダやコンテンツプロバイダに対し,任意に投稿者に関する情報の開示を求める方法やプロバイダ責任制限法ガイドラインに則って開示を求める方法もありますが,本稿で取り扱うのは,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)4条1項に定める発信者情報開示請求を民事保全法の仮処分手続を利用して行う方法です。
発信者情報開示請求は,投稿者に対して損害賠償責任や刑事責任を追及する前提として必要であり,通常,時間的に切迫した状況の中で行われるため,発信者情報開示請求を行う場合には,事前に手続の進め方について習熟しておく必要があります。
それでは,早速,発信者情報開示請求の手続について説明していきましょう。
手続の流れ
権利侵害投稿の把握と対策の検討
まずは,どのウェブページのどの部分に問題の投稿があるかを把握しましょう。
そして,問題の投稿を見て,①これが自己(依頼者)の権利を侵害するものか,②いつ投稿されたものかを確認しましょう。
ウェブサイトによって区々ですが,3か月~半年程度で投稿者に関するIPアドレスや投稿日時(タイムスタンプ)等のアクセスログが消去されることが多く,アクセスログが消去された場合,この後説明する手続が不能になってしまいます。
問題の投稿が権利侵害投稿に当たり,投稿されてからまだ時間がそれほど経過していないことが確認できたら,発信者情報開示請求を行う相手方を検討しましょう。
相手方として選択すべきは,当該ウェブページのサーバーに対して管理権限を有する者です。
そして,サーバーの管理権限者を調べるにあたっては,「aguse.」を利用するのが簡便です。
サーバーの管理権限者に対する発信者情報開示請求
事前準備
以上の検討が済んだら,サーバー管理権限者に対する発信者情報開示請求に向けて必要な書類を収集していきます。
必要書類は以下のとおりです。
請求者が個人 | 請求者が法人 | |
サーバー管理権限者が個人 | ①証拠資料 〔代理人がいる場合〕②委任状 |
①請求者の登記事項証明書(資格証明書) ②証拠資料 〔代理人がいる場合〕③委任状 |
サーバー管理権限者が法人 | ①サーバー管理権限者の登記事項証明書(資格証明書) ②証拠資料 〔代理人がいる場合〕③委任状 |
①請求者の登記事項証明書(資格証明書) ②サーバー管理権限者の登記事項証明書(資格証明書) ③証拠資料 〔代理人がいる場合〕④委任状 |
裁判
必要書類の収集が完了したら,いよいよ実際にサーバー管理権限者に対して発信者情報開示請求を行っていきます。
このとき,用いる手続は民事保全法の「仮の地位を定める仮処分」です。
本案訴訟を利用することも考えられますが,仮地位仮処分を利用する方が,手続が迅速に終了しますし,また,請求者の主張が認められ,仮処分命令が発令されれば,実際上,サーバー管理権限者は投稿者の情報を開示するからです。
アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求
アクセスログの保存
仮処分命令が発令されれ,サーバー管理権者は自発的に投稿に用いられたIPアドレスとタイムスタンプを開示したら,「aguse.」等のWhois検索で検索にかけましょう。
これにより,投稿者が契約しているアクセスプロバイダを特定することができます。
アクセスプロバイダが特定できたら,アクセスプロバイダに対してアクセスログの保存を要請する書面を送付します。
アクセスプロバイダがこの要請に協力してくれない場合には,発信者情報消去禁止仮処分の手続を踏み,アクセスログを保存します。
時間経過等によるアクセスログの消去が特に怖かったので,アクセスログを保存できれば,一息つくことができます。
アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求
アクセスログの保存が完了したら,今度はアクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求を行います。
ここで開示を求めるのは,投稿者の氏名・名称や住所等です。
そして,ここでは,仮地位仮処分ではなく,原則として訴訟を提起して請求を行います。
勝訴判決後
勝訴判決が出れば,アクセスプロバイダは任意に投稿者に関する上記情報を開示してくれることが多いようです。
投稿者が明らかになれば,今度はその者に対して損害賠償請求を行ったり,名誉棄損罪や侮辱罪等で刑事告訴や被害届の提出を行うことを検討します。
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