改正の概要
全部取得条項付種類株式取得・株式併合を実施するにあたって、株式会社が事前に本店に備え置かなければならない書面又は電磁的記録に記載若しくは記録しなければならない事項(現行法§171の2Ⅰ,§182の2Ⅰ、「事前開示事項」)には、㋐一株に満たない端数の処理をすることが見込まれる場合における当該処理の方法に関する事項、㋑当該処理により株主に交付することが見込まれる金銭の額、及び、㋒当該額の相当性に関する事項が含まれています(現行施行規則§33の2Ⅱ④,§33の9①ロ)。
しかし、端数処理により実際に株主に交付される代金の額は、任意売却等の結果に依存しており、実際に任意売却等がされるまでの代金額の下落リスクや代金の不交付リスクは、代金交付を受ける株主が負担することになります。そこで、確実かつ迅速な任意売却等の実施及び当該株主への代金の交付を確保するため、更なる開示の充実を図ることが要請されていました[1]。
今般の改正では、かかる要請に応え、事前開示事項のうち、端数処理の方法に関する事項等について充実・具体化が図られました(改正施行規則§33の2Ⅱ④,§33の9①ロ)。
以下、どのように充実・具体化が図られたかを明らかにするため、現行施行規則の定めと改正施行規則の定めとを対照します。改正点には下線が引いてあります。
■ 全部取得条項付種類株式取得に関する事前開示事項の改正
現行施行規則 | 改正施行規則 |
(全部取得条項付種類株式の取得に関する事前開示事項) 第三十三条の二 法第百七十一条の二第一項に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。 一 取得対価(法第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価をいう。以下この条において同じ。)の相当性に関する事項 二 取得対価について参考となるべき事項 三 計算書類等に関する事項 四 備置開始日(法第百七十一条の二第一項各号に掲げる日のいずれか早い日をいう。第四項第一号において同じ。)後株式会社が全部取得条項付種類株式の全部を取得する日までの間に、前三号に掲げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項 2 前項第一号に規定する「取得対価の相当性に関する事項」とは、次に掲げる事項その他の法第百七十一条第一項第一号及び第二号に掲げる事項についての定め(当該定めがない場合にあっては、当該定めがないこと)の相当性に関する事項とする。 一 取得対価の総数又は総額の相当性に関する事項 二 取得対価として当該種類の財産を選択した理由 三 全部取得条項付種類株式を取得する株式会社に親会社等がある場合には、当該株式会社の株主(当該親会社等を除く。)の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨) 四 法第二百三十四条の規定により一に満たない端数の処理をすることが見込まれる場合における当該処理の方法に関する事項、当該処理により株主に交付することが見込まれる金銭の額及び当該額の相当性に関する事項 3・4 (略) |
(全部取得条項付種類株式の取得に関する事前開示事項) 第三十三条の二 法第百七十一条の二第一項に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。 一 取得対価(法第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価をいう。以下この条において同じ。)の相当性に関する事項 二 取得対価について参考となるべき事項 三 計算書類等に関する事項 四 備置開始日(法第百七十一条の二第一項各号に掲げる日のいずれか早い日をいう。第四項第一号において同じ。)後株式会社が全部取得条項付種類株式の全部を取得する日までの間に、前三号に掲げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項 2 前項第一号に規定する「取得対価の相当性に関する事項」とは、次に掲げる事項その他の法第百七十一条第一項第一号及び第二号に掲げる事項についての定め(当該定めがない場合にあっては、当該定めがないこと)の相当性に関する事項とする。 一 取得対価の総数又は総額の相当性に関する事項 二 取得対価として当該種類の財産を選択した理由 三 全部取得条項付種類株式を取得する株式会社に親会社等がある場合には、当該株式会社の株主(当該親会社等を除く。)の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨) 四 法第二百三十四条の規定により一に満たない端数の処理をすることが見込まれる場合における次に掲げる事項 イ 次に掲げる事項その他の当該処理の方法に関する事項 (1) 法第二百三十四条第一項又は第二項のいずれの規定による処理を予定しているかの別及びその理由 (2) 法第二百三十四条第一項の規定による処理を予定している場合には、競売の申立てをする時期の見込み(当該見込みに関する取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会。(3)及び(4)において同じ。)の判断及びその理由を含む。) (3) 法第二百三十四条第二項の規定による処理(市場において行う取引による売却に限る。)を予定している場合には、売却する時期及び売却により得られた代金を株主に交付する時期の見込み(当該見込みに関する取締役の判断及びその理由を含む。) (4) 法第二百三十四条第二項の規定による処理(市場において行う取引による売却を除く。)を予定している場合には、売却に係る株式を買い取る者となると見込まれる者の氏名又は名称、当該者が売却に係る代金の支払のための資金を確保する方法及び当該方法の相当性並びに売却する時期及び売却により得られた代金を株主に交付する時期の見込み(当該見込みに関する取締役の判断及びその理由を含む。) ロ 当該処理により株主に交付することが見込まれる金銭の額及び当該額の相当性に関する事項 3・4 (略) |
■ 株式併合に関する事前開示事項の改正
現行施行規則 | 改正施行規則 |
(株式の併合に関する事前開示事項) 第三十三条の九 法第百八十二条の二第一項に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。 一 次に掲げる事項その他の法第百八十条第二項第一号及び第三号に掲げる事項についての定めの相当性に関する事項 イ 株式の併合をする株式会社に親会社等がある場合には、当該株式会社の株主(当該親会社等を除く。)の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨) ロ 法第二百三十五条の規定により一株に満たない端数の処理をすることが見込まれる場合における当該処理の方法に関する事項、当該処理により株主に交付することが見込まれる金銭の額及び当該額の相当性に関する事項 二・三 (略) |
(株式の併合に関する事前開示事項) 第三十三条の九 法第百八十二条の二第一項に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。 一 次に掲げる事項その他の法第百八十条第二項第一号及び第三号に掲げる事項についての定めの相当性に関する事項 イ 株式の併合をする株式会社に親会社等がある場合には、当該株式会社の株主(当該親会社等を除く。)の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨) ロ 法第二百三十五条の規定により一株に満たない端数の処理をすることが見込まれる場合における次に掲げる事項 (1) 次に掲げる事項その他の当該処理の方法に関する事項 (ⅰ) 法第二百三十五条第一項又は同条第二項において準用する法第二百三十四条第二項のいずれの規定による処理を予定しているかの別及びその理由 (ⅱ) 法第二百三十五条第一項の規定による処理を予定している場合には、競売の申立てをする時期の見込み(当該見込みに関する取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会。(ⅲ)及び(ⅳ)において同じ。)の判断及びその理由を含む。) (ⅲ) 法第二百三十五条第二項において準用する法第二百三十四条第二項の規定による処理(市場において行う取引による売却に限る。)を予定している場合には、売却する時期及び売却により得られた代金を株主に交付する時期の見込み(当該見込みに関する取締役の判断及びその理由を含む。) (ⅳ) 法第二百三十五条第二項において準用する法第二百三十四条第二項の規定による処理(市場において行う取引による売却を除く。)を予定している場合には、売却に係る株式を買い取る者となると見込まれる者の氏名又は名称、当該者が売却に係る代金の支払のための資金を確保する方法及び当該方法の相当性並びに売却する時期及び売却により得られた代金を株主に交付する時期の見込み(当該見込みに関する取締役の判断及びその理由を含む。) (2) 当該処理により株主に交付することが見込まれる金銭の額及び当該額の相当性に関する事項 二・三 (略) |
以上の改正は、全部取得条項付種類株式取得・株式併合の株主総会決議が改正法の施行日後に実施された場合における事前開示事項に適用されので(改正省令附則§2Ⅱ,Ⅲ)、2021年3月総会から対応が必要です。
[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)241頁。
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