【改正会社法】取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解【2021年3月1日施行】

改正の概要

 監査役設置会社等が、当該監査役設置会社等の取締役(監査等委員及び監査委員を除く)、執行役及び清算人並びにこれらの者であった者(以下「取締役等」)の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解をするには、各監査役等の同意を得なければならない旨の規定が新設されました(改正法§849の2)。

 当該改正の趣旨は、現行法上、取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解について、会社を代表する者の代表権限の内容や手続等が不明確であったことから、その明確化を図ることにあります。

株式会社の種類 同意を得る必要がある者
監査役設置会社 すべての監査役
監査等委員設置会社 すべての監査等委員
指名委員会等設置会社 すべての監査委員

 本改正では、当該和解に関して、上記の改正が行われたのみであり、改正規定は、会社を誰が代表するかについては特段言及していません。

 しかし、この点については、従来の解釈どおり、㋐監査役設置会社等が取締役等の責任を追及する訴えを提起しており、原告として当該取締役等と和解を行う場合は、当該訴訟において当該監査役設置会社等を代表する監査役等(改正法§386Ⅰ①,§399の7Ⅰ②,§408Ⅰ②,§491)が、㋑監査役設置会社等は当該訴えを提起していないものの、株主が株主代表訴訟によって当該訴えを提起しており、監査役設置会社等が補助参加人又は利害関係人として被告取締役等と和解を行う場合は、代表取締役等(有力説)が監査役設置会社等を代表することになると解されています[1]

 したがって、この考え方に基づくと、当該和解は、監査役設置会社等が自ら原告となる場合は、監査役等が、監査役設置会社等が補助参加人又は利害関係人となる場合は、代表取締役等が、監査役等全員の同意を得た上で、当該監査役設置会社等を代表して被告取締役等と和解を行うことになるでしょう。

内田修平=邉英基「令和元年改正会社法の実務対応(8)・完 その他の改正が実務に与える影響」旬刊商事法務2237号35頁に基づき作成
会社の立場 被告
取締役(監査等委員・監査委員を除く) 監査等委員・監査委員 執行役
原告 監査役・監査等委員・監査委員(法§386Ⅰ①,§399の7Ⅰ②,§408Ⅰ②) 取締役会又は株主総会が定める者(法§399の7Ⅰ①,§408Ⅰ①) 監査委員
(法§408Ⅰ②)
補助参加人 代表取締役・代表執行役
(法§349Ⅳ,§420Ⅲ)※
代表取締役・代表執行役
(法§349Ⅳ,§420Ⅲ)
代表執行役
(法§349Ⅳ,420Ⅲ)※
利害関係人
※ 和解に際して全ての監査役、監査等委員、又は監査委員の同意が必要(改正法§849の2)。
(注) 清算株式会社である場合は上記に含めていない。

 なお、代表取締役・代表執行役と被告取締役等との間で行われる当該和解について、利益相反規制(改正法§356Ⅰ②,§365Ⅰ)が適用されるかどうかについては、解釈に委ねられているため、今後の議論の集積が待たれます。

 実務的には、一定の方向性が確立されるまでは、ひとまず利益相反規制が適用されるものと考えておくのが穏当といえるでしょう[2]


[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)228頁。
[2] 内田修平=邉英基「令和元年改正会社法の実務対応(8)・完 その他の改正が実務に与える影響」旬刊商事法務2237号35頁。

対応必要事項(対応優先度・必要性:低)

  • 施行日後に当該和解をする場合には改正法の手続による必要がある。

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