【改正会社法】株主総会参考書類の記載事項の変更点と起案要領【2021年3月1日施行】

はじめに

 本稿では、パブリック・コメント等を手掛かりとして、本改正により変更が加えられた株主総会参考書類の記載事項について、整理したいと思います。

 なお、具体的な記載方法は、東京株式懇話会「会社法改正の概要と株式実務への影響」(2020年12月4日)や菊地伸「二〇二一年定時株主総会に向けた課題と運営準備のポイント」旬刊商事法務2250号の記載例も参考になります。

記載事項の整理と起案要領

【記載事項の変更項目】
  • 役員報酬等
    ▪ 「相当とする理由」(改正施行規則§73Ⅰ②)
    ▪ 株式報酬等の株主総会決議に関する定めの明確化
    ▪ 募集株式無償発行の解禁
    ▪ 0円ストック・オプションの解禁
  • 補償契約(会社補償)
  • 役員等賠償責任保険(D&O保険等)
  • 社外取締役の機能発揮等
    ▪ 開示事項の充実
    ▪ 開示事項の削除等
  • 社債の管理
  • 株式交付
  • 取締役等選任候補者と親会社等の関係に係る事項の対象期間の拡張

役員報酬等

⑴ 「相当とする理由」(改正施行規則§73Ⅰ②)

 本改正により、株主総会において、不確定額報酬や非金銭報酬に関する議案のみならず、確定額報酬に関する議案の内容を定め、又は改定する場合にも、その報酬等議案を「相当とする理由」の説明を求めることとされたこと(改正法§361Ⅳ)に連動して、株主総会参考書類の記載事項も拡充されました(改正施行規則§73Ⅰ②)。

 「相当とする理由」の説明としては、当該報酬等議案に係る報酬等を定めることが必要かつ合理的であることについて、株主が理解することができる説明を行うことが求められます[1]。

⑵ 株式報酬等の株主総会決議に関する定めの明確化

 取締役の報酬等として当該株式会社の株式や新株予約権等を付与しようとする場合において、定款又は株主総会の決議により、定めることが義務付けられている「報酬等のうち金銭でないもの…の具体的な内容」(現行法§361Ⅰ③)の明確化が図られました(改正法§361Ⅰ③~⑤,改正施行規則§98の2~4)。

報酬等の内容 株主総会決議事項等
株式 ㋐ 当該株式会社の取締役が引き受ける募集株式の数(種類株式発行会社にあっては,募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限
㋑ 一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
㋒ 一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
【報酬等の内容が株式の場合】
 ㋑・㋒に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
㋓’【報酬等の内容が募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭の場合】
 ㋑・㋒に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭
新株予約権 ㋐ 当該株式会社の取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限
㋑ 当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法
㋒ 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法 [2]
㋓ 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
㋔ 当該新株予約権を行使することができる期間
㋕ 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
㋖ ㋑~㋕に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
㋗ 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
㋘ 当該新株予約権について、当該会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときに、当該新株予約権の内容として定められる事項(法§236Ⅰ⑦参照)の内容の概要
【報酬等の内容が新株予約権の場合】
 取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
㋙’【報酬等の内容が募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭の場合】
 取締役に対して当該募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭

ア 株式等を報酬等の内容とする場合

(ア)改正法§361Ⅰ③,⑤イ

㋐ 当該株式会社の取締役が引き受ける募集株式の数(種類株式発行会社にあっては,募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限

  • 特にコメントなし。

(イ)改正法§361Ⅰ③・改正施行規則§98の2①,改正法§361Ⅰ⑤イ・改正施行規則§98の4Ⅰ①

㋑ 一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要

  • 「当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするとき」とは、取締役と株式会社との間で締結される契約等において、取締役が当該募集株式を他人に譲渡しないことを定める場合を想定している[3]。なお、取締役が報酬等として付与された募集株式を譲渡することを制限する方法としては、当該募集株式を譲渡制限株式とすることも考えられるが、そのことによって改正施行規則§98の2①の「当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させること」となるものではないと考えられる[4]。
  • 「一定の事由の概要」は、募集株式を付与することが取締役に適切なインセンティブを付与するものであるかどうかを株式が判断するために必要な事項を定めることになる[5]。他方で、当該事由の細目等の決定は取締役会に委ねることは可能である[6]。

(ウ)改正法§361Ⅰ③・改正施行規則§98の2②,改正法§361Ⅰ⑤イ・改正施行規則§98の4Ⅰ②

㋒ 一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要

  • 「当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするとき」とは、取締役と株式会社との間で締結される契約等において、取締役が当該募集株式を株式会社に対して無償で譲り渡すことを定める場合を想定している[7]。
  • 「一定の事由の概要」は、募集株式を付与することが取締役に適切なインセンティブを付与するものであるかどうかを株式が判断するために必要な事項を定めることになる。他方で、当該事由の細目等の決定は取締役会に委ねることは可能である[8]。

(エ)改正法§361Ⅰ③・改正施行規則§98の2③,改正法§361Ⅰ⑤イ・改正施行規則§98の4Ⅰ③

㋓ 【報酬等の内容が株式の場合】
 ㋑・㋒に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

㋓’ 【報酬等の内容が募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭の場合】
 ㋑・㋒に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

  • 「条件の概要」は、募集株式を付与することが取締役に適切なインセンティブを付与するものであるかどうかを株式が判断するために必要な事項を定めることになる。他方で、当該事由の細目等の決定は取締役会に委ねることは可能である[9]。
  • 「割り当てる条件」は、取締役や執行役に報酬等として募集株式を付与する前提として何らかの事項を約させる場合における当該事項のほか、一定の条件が満たされたときに報酬等として募集株式を割り当てることとする場合における当該条件も含まれると考えられる[10]。

[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)87頁、石井裕介「報酬等の方針決定義務化と情報開示」ビジネス法務2020年2月号142頁。
[2] 改正法§236Ⅲの場合には、㋒の事項に代えて、改正法§236Ⅲ各号に掲げる事項を定める必要があります(改正施行規則§98の3①括弧書)。
[3] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号118頁。
[4] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号119頁。
[5] 上場会社が、報酬等として取締役に募集株式を付与する場合において、当該取締役による当該株式の譲渡がインサイダー取引規制に抵触することを避けるため、当該株式の譲渡時期等を制限する社内規程等に服することを当該取締役に約させることが予定されているときであっても、当該制限は、取締役に適切なインセンティブを付与するという観点からの制限ではないため、改正施行規則§98の2①の事項として当該制限に関する事項を株主総会の決議等によって定める必要はないと整理することが可能であると述べるものとして、渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号119頁。
[6] 省令パブコメ結果第3の1(5)①。
[7] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号118頁。
[8] 省令パブコメ結果第3の1(5)①。
[9] 省令パブコメ結果第3の1(5)①。
[10] 省令パブコメ結果第3の1(5)⑧、渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号118頁。

イ 新株予約権等を報酬等の内容とする場合

(ア)改正法§361Ⅰ④,⑤ロ

㋐ 当該株式会社の取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限

  • 例えば、「当社取締役が引き受ける新株予約権の個数は年間最大1,500個を上限とする。」などと記載することが考えられる。

(イ)改正法§361Ⅰ④・改正施行規則§98の3①・改正法§236Ⅰ①~④,改正法§361Ⅰ⑤イ・改正施行規則§98の4Ⅱ①・改正法§236Ⅰ①~③

当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法

㋒ 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法[1]

金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額

当該新株予約権を行使することができる期間

  • ㋑~㋔について、「~の概要」とはなっていないものの、株主が希釈化等の影響や募集新株予約権を報酬等として付与する必要性を判断する上で十分な事項が定められる限りにおいて、必ずしも実際に発行される新株予約権の内容と同じ程度に具体的な内容を定めることが求められるものではない[2]。
  • 募集新株予約権が、株主総会決議等に基づいて複数回発行される場合には、株主総会決議等における募集新株予約権の内容についての定めを複数回の発行に対応するために必要な範囲で一定程度抽象的な内容とすることもできると考えられる[3]。

(ウ)改正法§361Ⅰ④・改正施行規則§98の3②,改正法§361Ⅰ⑤イ・改正施行規則§98の4Ⅱ②

㋕ 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要

  • 「一定の資格」とは、例えば、当該募集新株予約権の行使時に当該株式会社の取締役に在任していることなどを指す[4]。
  • もっとも、「一定の資格」に該当することとなる当該地位等の内容は限定されておらず、例えば、新株予約権の付与時に当該株式会社の取締役又は執行役であった者が当該株式会社の他の役職若しくは他のグループ会社の役職に就任した場合であっても、新株予約権を行使することができる旨定めることも可能である[5]。

(エ)改正法§361Ⅰ④・改正施行規則§98の3③,改正法§361Ⅰ⑤イ・改正施行規則§98の4Ⅱ③

㋖ ㋑~㋕に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要

  • 「条件」とは、例えば、当該株式会社の業績が一定の水準を超えた場合に限り、当該募集新株予約権を行使することができることとすることなどが考えられる[6]。

(オ)改正法§361Ⅰ④・改正施行規則§98の3④・改正法§236Ⅰ⑥,改正法§361Ⅰ⑤イ・改正施行規則§98の4Ⅱ④・改正法§236Ⅰ⑥

㋗ 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨

  • 特にコメントなし。

(カ)改正法§361Ⅰ④・改正施行規則§98の3⑤・改正法§236Ⅰ⑦,改正法§361Ⅰ⑤イ・改正施行規則§98の4Ⅱ①・改正法§236Ⅰ⑦

㋘ 当該新株予約権について、当該会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときに、当該新株予約権の内容として定められる事項(法§236Ⅰ⑦参照)の内容の概要

  • 特にコメントなし。

(キ)改正法§361Ⅰ④・改正施行規則§98の3⑥,改正法§361Ⅰ⑤イ・改正施行規則§98の4Ⅱ⑥

【報酬等の内容が新株予約権の場合】
取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

㋙’ 【報酬等の内容が募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭の場合】
取締役に対して当該募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

  • 「割り当てる条件」に該当する事項には、一定の条件が満たされたときに報酬等として募集新株予約権を割り当てることとする場合における当該条件や当該募集新株予約権の割当てに際して取締役に一定の事項を約させることとする場合におけるその内容が含まれると考えられる[7]。

[1] 改正法§236Ⅲの場合には、㋒の事項に代えて、改正法§236Ⅲ各号に掲げる事項を定める必要があります(改正施行規則§98の3①括弧書)。
[2] 省令パブコメ結果第3の1(5)⑤。

[3] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号121頁。
[4] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号120頁。
[5] 省令パブコメ結果第3の1(5)⑦。

[6] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号120頁。
[7] 省令パブコメ結果第3の1(5)⑧、渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号120頁。

⑶ 募集株式無償発行の解禁

 上場会社取締役の報酬等として株式発行等をする場合には、募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しないこととされました(改正法§202の2Ⅰ・Ⅱ等)[1] [2] [3]。

 そして、この場合、定款又は株主総会決議において、払込金額等や払込期日を定める代わりに、次の事項を定めなければならないとしています(改正法§202の2Ⅰ)。

  • 取締役の報酬等として募集株式の発行等を行うものであり、募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しない旨
  • 募集株式の割当日

⑷ 0円ストック・オプションの解禁

 上場会社は、取締役報酬等として又は取締役報酬等をもってする払込みと引換えに新株予約権を発行する場合には、当該新株予約権行使に際して金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しないこととされました(改正法§236Ⅲ①)[4]。

 そして、この場合、以下の事項を当該新株予約権の内容としなければならず、これらの事項を定めたときは、その定めを登記しなければなりません(改正法§236Ⅲ柱書後段,§911Ⅲ⑫ハ)。

  • 当該新株予約権の行使に際してする金銭の払込み又は改正法§236Ⅰ③の財産の給付を要しない旨
  • 取締役(取締役であった者を含む。)以外の者は、当該新株予約権を行使することができない旨

[1] 指名委員会等設置会社において執行役又は取締役に対して報酬等として株式を付与する場合についても、同様の規律が設けられています(改正法§202の2Ⅲ,§205Ⅴ)。
[2] 取締役は割当日に株主となります(改正法§209Ⅳ)。
[3] 有利発行規制(改正法§199Ⅲ)や不公正な払込金額による引受人等の責任(改正法§212)は、株式が無償発行される場合、払込金額がなく、適用の前提を欠くため、適用されないと解されます。
[4] 指名委員会等設置会社において執行役又は取締役に対して報酬等として新株予約権を発行する場合についても、同様の規律が設けられています(改正法§236Ⅳ)。

補償契約(会社補償)

 本改正により、役員選任議案に関する株主総会参考書類の開示事項として、役員等[1]の候補者との間で補償契約を締結している場合又は締結する予定がある場合は、補償契約の内容の概要を記載しなければならない旨の規定が新設されました(改正施行規則§74Ⅰ⑤,§74の3Ⅰ⑦,§75⑤,§76Ⅰ⑦,§77⑥)。

 「補償契約の内容の概要」については、候補者との補償契約締結によって、当該候補者が役員等に選任された場合におけるインセンティブの付与及びその職務の執行の適正性にどのような影響が生じ得るかを理解するに当たり必要な事項を記載することが求められます[2]

また、「締結する予定があるとき」とは、補償契約が、株主総会参考書類の作成時において、未だ締結されていないとしても、締結する予定がある場合を指します[3]。したがって、今後締結することが見込まれる補償契約の内容については、株主総会参考書類の作成時点において判明している限りにおいてその概要を記載することとなります[4]

 改正法の施行日以後に締結・更新される補償契約について対応が必要になります(改正法附則§6,改正省令附則§2Ⅵ,Ⅹ)。


[1] 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(改正法§423Ⅰ)。
[2] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅰ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2250号9頁。

[3] 省令パブコメ結果第3の1(4)ア③。
[4] 省令パブコメ結果第3の1(4)ア②。

役員等賠償責任保険契約(D&O保険等)

⑴ 改正の概要

 本改正により、役員選任議案に関する株主総会参考書類の開示事項として、候補者を対象とする保険契約を締結しているとき又は締結する予定があるときは、当該保険契約の内容の概要を記載しなければならない旨の規定が新設されました(改正施行規則§74Ⅰ⑥,§74の3Ⅰ⑧,§75⑥§76Ⅰ⑧,§77⑦)。

⑵ 「締結しているとき」と「締結する予定があるとき」の意義

ア 「締結しているとき」の意義

 「締結しているとき」は、以下の場合を指します[1]

  • ㋐ 新任の役員等[2]候補者が当該株式会社の役員等に就任した場合に、当該候補者が被保険者に含められることになる内容の役員等賠償責任保険契約が、株主総会参考書類の作成時において、すでに締結されている場合
  • ㋑ 役員等候補者が現任の役員等である場合であって、当該候補者を被保険者とする役員等賠償責任保険契約が、株主総会参考書類の作成時において、すでに締結されている場合

イ 「締結する予定があるとき」の意義

 一方、「締結する予定があるとき」とは、㋐及び㋑のような役員等賠償責任保険が、株主総会参考書類の作成時において、未だ締結されていないとしても、締結する予定がある場合を指します[3]。したがって、今後締結することが見込まれる役員等賠償責任保険契約の内容については、株主総会参考書類の作成時点において判明している限りにおいてその概要を記載することとなります[4]

⑶ 「内容の概要」の起案要領

 「役員等賠償責任保険契約の内容の概要」については、候補者との役員等賠償責任保険契約締結によって、当該候補者が役員等に選任された場合におけるインセンティブの付与及びその職務の執行の適正性にどのような影響が生じ得るかを理解するに当たり必要な事項を記載することが求められます[5]

 なお、当該候補者について、その任期途中に更新時期が到来する予定がある場合には、当該契約の「内容の概要」として、その旨を記載することが想定されています[6]

⑷ 経過措置

 改正法の施行日以後に締結・更新される保険契約について対応が必要となります(改正法附則§7,改正省令附則§2Ⅵ)。


[1] 省令パブコメ結果第3の1(4)ア②。なお、締結予定の役員等賠償責任保険契約の内容の概要を株主総会参考書類に記載したとしても、将来の取締役会の判断を拘束しません(省令パブコメ結果第3の1(4)ア⑤)。
[2] 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(改正法§423Ⅰ)。
[3]
省令パブコメ結果第3の1(4)ア③。
[4] 省令パブコメ結果第3の1(4)ア②。
[5] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅰ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2250号9~10頁。
[6] 省令パブコメ結果第3の1(4)ア④。なお、更新予定の役員等賠償責任保険契約の内容の概要を株主総会参考書類に記載したとしても、将来の取締役会の判断を拘束しません(省令パブコメ結果第3の1(4)ア⑤)。

 

社外取締役の機能発揮等

⑴ 開示事項の充実

ア 改正の概要

 本改正では、社外取締役を選任する議案に係る株主総会参考書類の記載事項として、社外取締役候補者につき、社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要[1]が追加されました(改正施行規則§74Ⅳ③,§74の3Ⅳ③)。

 「社外取締役候補者につき、社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」については、社外取締役による監督の実効性を担保するため、社外取締役候補者とした理由等(現行施行規則§74Ⅳ②,§74の3Ⅳ③等)に加え、社外取締役候補者に対して、どのような視点からの取締役の職務の執行の監督を期待しているかなど、株式会社が当該社外取締役候補者にどのような役割を期待しているかをより具体的に記載することが要求されています[2]

 起案にあたっては、菊地伸「二〇二一年定時株主総会に向けた課題と運営準備のポイント」旬刊商事法務2250号17頁の記載例が参考になります。

イ 経過措置及び留意事項

 改正法の施行日以後に招集手続が開始された株主総会、すなわち、施行日以後に株主総会参考資料の記載を含めて改正法§298Ⅰ各号に掲げる事項が取締役会によって決定された株主総会[3]に係る参考書類について対応が必要となります(改正省令附則§2Ⅸ)。

 なお、事業報告において「社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要」の開示が求められる会社が公開会社に限定されているのと異なり、参考書類に関して対応が必要となる会社は公開会社に限定されていないことに注意が必要です。


[1] 参考:経済産業省「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」(2020年7月31日)
[2] 省令パブコメ結果第3の1(4)イ②,③。社外取締役の選任後に事業環境の変動等によって期待されていた役割が変動した場合に、当該役割以外の役割に係る行為を行うことは妨げられないことにつき、省令パブコメ結果第3の1(4)イ④を参照。

[3] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅰ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2250号14頁。

⑵ 開示事項の削除等

 一方、上場会社等は、改正法の施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る定時株主総会より、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明したり、株主総会参考書類に記載する必要がなくなりました(改正法§327の2及び改正施行規則§74の2削除,改正法附則§5,改正省令附則§2Ⅶ)。上場会社等においては、社外取締役の選任が義務付けられたためです(改正法§327の2)。

社債の管理

 社債管理補助者を設置する場合には、社債を引き受ける者を募集するにあたり、次の㋐~㋓が、募集事項として定めるべき事項に新たに付け加えられました(改正法§676⑦の2,⑧の2,改正施行規則§162⑥,⑦)[1]

  • 社債管理者を定めないこととする旨
  • 社債管理補助者を定めることとする旨
  • 社債管理補助者との委託契約において約定権限として列挙されている権限(改正法§714の4Ⅱ各号)及び法定権限以外の権限を定めるときは、その権限の内容
  • 社債管理補助者との委託契約における社債権者に対する報告又は社債権者が知ることができるようにする措置に係る定めの内容

[1] 株式会社がその発行する新株予約権を引き受ける者を募集しようとする場合であって、当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものであるときも、同様の事項を定める必要があります(改正法§238Ⅰ⑥,§676⑦の2,⑧の2)。

株式交付

 効力発生日の前日までに、株式交付計画について、株主総会特別決議による承認を得る必要があります(改正法§816の3Ⅰ,§309Ⅱ⑫)[1]

 株式交付計画の承認議案に係る株主総会参考書類には、次の事項を記載する必要があります(改正施行規則§91の2各号)。

  • 株式交付を行う理由
  • 株式交付計画の内容の概要
  • 招集決定日における事前開示事項(改正施行規則§213の2①~④)の内容の概要

[1] 株式交付親会社において差損が生じた場合の取締役の説明義務につき、改正法§816の3Ⅱ参照。

取締役等選任候補者と親会社等の関係に係る事項の対象期間の拡張

 親会社等が存在する公開会社における取締役又は監査役の選任議案に係る株主総会参考書類について、候補者が親会社等若しくは特定関係事業者の業務執行者であったことを知っている場合等に記載すべき事項の対象期間が過去5年から10年に拡張されました(改正施行規則§74Ⅲ③,Ⅳ⑦ロ,ハ,§74の3Ⅲ③,Ⅳ⑦ロ,ハ,§76Ⅲ③,Ⅳ⑥ロ,ハ)。

  • 当該他の者における地位及び担当
  • 社外取締役候補者と親会社等又は特定関係事業者との関係

 当該記載事項については、その対象となっている事項が開示事項とされていることを前提として行われる調査の結果として知っている場合を指し、そのような調査をしても知り得なかった事実を記載することを求めるものではありません[1]

 当該改正は、改正法の施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る定時株主総会から対応が求められることになります(改正省令附則§2Ⅶ)。


[1] 省令パブコメ結果第3の1(4)ウ。

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