事案の概要
東京地判令和5年7月7日の事案の概要は次のとおりです。
判旨
上記事案について、裁判所は次のように判示して原告の請求を棄却しました。
(1) 社会的評価を低下させる事実摘示の有無及び社会的評価の低下の有無
「原告は、本件記述1及び2につき、「原告が、実質的には反社会的勢力を資金源とするシスウェーブ株式の大量取得に関与していた」という事実(原告主張摘示事実)を摘示するものであるなどと主張する。」
【本件記述1】
「本件記述1は、被告において、リ・ジェネレーションによる株式の大量保有報告書等の提出により初めて、リ・ジェネレーションが被告の筆頭株主及び主要株主になったことを認識したことを受け、リ・ジェネレーションにその意図等を確認するやり取りの中で記載されたものである。そして、被告は、上場会社であり、株主を含む投資家その他の市場関係者に対する情報公開に十全を期すことが期待されており、上記やり取りが本件ウェブページに掲載された趣旨も、そのような期待に被告として応えるためであったと認めることができるところ、本件ウェブページを閲覧する一般の読者においても、上記趣旨は容易に認識することができるものと認められる。
このような事情に加え、本件記述1が、リ・ジェネレーションがシスウェーブの株式を大量に取得したという客観的事実を前提にした上、「上記報道された事実」の真偽を確認することなどを内容とする文章に続いていることをも考慮すれば、本件記述1は、一般の読者の普通の注意と読み方によれば、原告主張摘示事実そのものではなく、その報道がされているという事実を摘示するものと認めることができる。
原告は、仮に本件記述1が原告主張摘示事実の報道がされているという事実の摘示であるとしても、原告の社会的評価を低下させると主張する。
しかし、……本件ウェブページに被告とリ・ジェネレーションとのやり取りが掲載された趣旨及びその趣旨を本件ウェブページの一般の読者が容易に認識可能であるという事情を考慮すれば、上記一般の読者は、本件記述1について、そこに記載されたアクセスジャーナルによる報道があるという事実を超えて、当該報道内容が真実であるという印象を抱くとまでは認めることができず、上記報道がされたという本件記述1自体をもって、直ちに原告の社会的評価を低下させるものとまで認めることはできない。」
【本件記述2】
「本件記述2-1を含む「質問状(4)」も、上記(2)アで説示した被告とリ・ジェネレーションとのやり取りとして本件ウェブページに掲載されたものであり、上記部分については、「再質問状で指摘した」という文言が前提として記載されているものである。そして、「再質問状」の記載では、リ・ジェネレーションによるシスウェーブ株式の大量取得への原告の関与は、アクセスジャーナルの報道内容として摘示されていた……。
このような事情に加え、「質問状(4)」では、本件記述2の直後に「このように、貴社とX氏との繋がりに関する報道が、時期も、対象とする会社も異にして繰り返されている」という記載があり、ここでは本件記述2-1も報道内容についての記載であることが明記されていることや、」本件記述1に対する説示で「説示した事情をも考慮すれば、本件記述2-1について、本件ウェブページにおいて閲覧する一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、原告主張摘示事実の摘示があるものとまで認めることはできず、その報道がされているということが摘示事実であると認めるのが相当である。」
「本件記述2-2については、」本件記述1に対する説示で説示した事情に加え、上記「指摘の本件記述2直後の記載をも考慮すれば、アクセスジャーナルにおいて報道されていること自体を事実として摘示するものと認められる。
本件記述2の摘示事実が原告主張摘示事実の報道がされていることであるとしても、原告の社会的評価を低下させるとする原告の主張については、」本件記述1に対する説示「と同様の理由により採用することはできない。」
(2) 本件公表行為の不法行為の成否
また、裁判所は次のとおり判示して、本件記述1及び3の公表について、原告のプライバシーを侵害したものとして不法行為を構成すると認めることはできないとしました。
「ある者の前科等に関わる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に、その者のその後の生活状況、当該刑事事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その者の事件における当事者としての重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、上記の前科等に関わる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、上記の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができると解される(平成6年最判参照)。
本件記述1及び3が記載された文書は、著作物には当たらないが、上記2(2)ア説示の趣旨で本件ウェブページに掲載されて公表されたものであることを考慮すれば、この公表が不法行為に当たるか否かについても、上記の判断基準に準じて、前科等に関わる事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由との比較衡量により判断すべきものと解するのが相当である。」
「そこで検討すると、……本件刑事事件は、追徴金額の大きさに照らしても、歴史的にも社会的にも重要な意義を有する刑事事件であるといえ、その中で原告の果たした役割の重要性も極めて大きいものといえる。また、……本件前科事実自体は、インターネット上のアクセスジャーナルやベルダの記事中にも繰り返し原告の実名と共に掲載されるなどしており、被告が本件ウェブページに本件前科事実を原告の実名と共に掲載したからといって、原告に実害が生ずるとは認め難く、現に、実害が生じたことについての主張立証はない。
また、……本件前科事実自体は、現在でも、原告の氏名のみを入力してインターネット上で検索をすれば、本件ウェブページに限らず複数のウェブサイトが表示されて確認することができる状態にあるものである。したがって、本件ウェブページで被告とリ・ジェネレーションとのやり取りを公表するに当たり、仮に本件記述1及び3のうちの原告の氏名部分を匿名化したとしても、その余の内容から原告の氏名を確認することが困難であったとは認められない。
他方、……アクセスジャーナルやファクタ、ベルダは、有料会員を対象としたり、16年にわたり発行が続いていたりするもので、その記事の内容に照らしても、信用性を一律に否定することができるものとはいえず、被告としては、上記記事の内容につきリ・ジェネレーションに真偽等を確認するとともに、これに関連するやり取りを株主を含む投資家その他の市場関係者に公開して情報を提供する必要性は高かったと認められる。
こうした事情を考慮すれば、本件記述1及び3による本件前科事実の公表については、原告が実際にリ・ジェネレーション等による被告株式の大量取得に関与しているか否かにかかわらず、これを公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとは認められないというべきである。」
※ 傍線は筆者による。
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