契約書の前文について
契約書では,通常,「売買基本契約書」や「秘密保持契約書」等といった表題の後,第1条から始まる条項群の前に次のような定めが置かれます。
X社(以下,「売主」という。)とY社(以下,「買主」という。)とは,両社間で継続的に行われる鋼板の売買取引に関し,以下のとおり基本的条件を取り決めたので,本基本契約書を締結する。
A株式会社(以下,「A」という。)とB株式会社(以下,「B」という。)とは,◇◇◇について検討するにあたり(以下,「本取引」という。),A又はBが相手方に開示する秘密情報の取扱いについて,以下のとおりの秘密保持契約(以下,「本契約」という。)を締結する。
このようなもののことを「前文」といいます。
前文の機能
この前文の機能は,
の2点にあるといわれています。
したがって,前文の記載として十分か否かを検討するにあたっては,契約当事者は特定されているか,契約の対象となる取引の内容やその範囲は特定されているかという観点に着目することになります。
契約当事者の略称
ところで,前文において,契約当事者の呼称について,「(以下,「〇〇」という。)」などという当該契約当事者を略称する旨の断りが入れられることが通常です。
その際に,契約当事者を「甲」や「乙」と略称することが少なくありません。
しかし,「甲」や「乙」といった略称は無個性であり,契約書を読んでいて,「甲」や「乙」が一体どちらの契約当事者を指しているのか混乱をきたすおそれがあります。
そこで,私見としては,「甲」や「乙」などといった無個性な略称は避けるべきであると考えます。
したがって,その略称を見て,どの契約当事者を指しているのか,一目で分かるような特定性の高い略称を用いるべきです。
例えば,Line Pay株式会社とUber Technologies,inc.との取引であれば,前者を「LP」,後者を「UT」などと略称することが考えられます。また,契約当事者の属性に着目して,「売主」や「買主」などといった略称でも,契約当事者の誤認混同を避けることができると考えられます。
もっとも,契約の相手方によっては,自身をイニシャル等で称されることを嫌う者もいます。
したがって,契約書を作成する前に,契約書上いかなる略称を用いるかを相互に確認しておく必要があります。
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