民事裁判手続のIT化の現状と今後についてまとめてみた

はじめに

 本稿では,民事裁判手続のIT化について,その現状と今後をざっくりと説明したいと思います。

我が国の立ち位置

 我が国の民事裁判手続のIT化は,先進各国の中では後れをとっています。

 例えば,アメリカでは,1990年代後半にはすでに裁判文書の電子提出が開始されていましたし,2000年になるとシンガポールでも裁判文書の電子提出が全面的に導入されました。

 また,お隣の国の韓国でも2011年にはIT化された訴訟手続(「電子訴訟」)が民事事件で利用されるようになっています。

 確かに,我が国においても,過去に民事裁判手続をIT化しようと試みられたことはありますが,結局,頓挫し,現在に至っています。

 また,世界銀行が,我が国の裁判所手続につけた総合評価は,OECD加盟35国中23位,世界190か国中48位とかなり順位が低く,とりわけ「事件管理」や「裁判の自動化」に関しては最低レベルの評価がつけられていました。

我が国における民事裁判手続のIT化の概要

 このような現状に危機感を覚え,我が国でも民事裁判手続のIT化が推し進められることになりました。

 とはいえ,一口に「民事裁判手続のIT化」といっても,何がどう変わるのかよく分かりませんよね。

 我が国における民事裁判手続のIT化は,e提出」,「e事件管理」,「e法廷という大きく3種類のことが3段階に分けて行われます。

 まとめると,下表のとおりです。

フェーズ1 ・弁論準備手続期日や書面による準備手続における協議等においてウェブ会議・テレビ会議等を活用(段階的にMicrosoftのTeamsを用いた共有ファイルの共同編集も取り入れていく予定)
・現在FAX提出が可能な書類(民訴規§3Ⅰ)の電子提出(民訴法§132の10)
フェーズ2 ・弁論・争点整理等におけるウェブ会議用機器の活用
フェーズ3 ・オンラインでの訴えの提起等
・訴訟記録の電子化

 フェーズ1については,一部の裁判所では,すでに今年(2020年)の2月から開始されています

 具体的には,知財高裁高裁所在地の地裁(ただし,東京・大阪は部分的実装)です。

 その他の地裁でも,今年の5月から開始される見込みです。

 一方,フェーズ2とフェーズ3については,フェーズ2は,機器導入と民訴法改正が,フェーズ3は,機器導入と民訴法改正に加え,システム開発がネックになっており,すぐに開始することはできないようです。

 フェーズ2は2022年頃に,フェーズ3は2025年頃に開始できればいいなぁという感じだそうです。

〔フェーズ1~3の実施見込み等〕
  • 2020.2
    「フェーズ1」実施 @①知財高裁+②高裁所在地の地裁

  • 2020.5
    「フェーズ1」実施 @②以外の地裁
  • 2022
    「フェーズ2」実施
  • 2025
    「フェーズ3」実施

その他のホットな話題

 民事裁判手続のIT化の議論に付随して,民事裁判手続の効率的運用の観点から,以下の2つの手続の実装の是非についても,議論が交わされています。

特別の訴訟手続

 まず,即決裁判手続の民訴バージョンのような手続です。

 すなわち,当事者双方に訴訟代理人がついており,双方の同意があることを条件として,審理期間の短縮や,主張立証の制限等の特則の適用を受ける地方裁判所の特別な訴訟手続です。

 当該手続の特色は以下の4点です。

  • 反訴の原則禁止
  • 第1回口頭弁論期日から審理終結まで原則6か月
  • 各当事者の主張書面は原則3通まで
  • 証拠は厳選し,即時に取り調べられるもののみ

簡裁特則である和解に代わる決定の制度(民訴法§275の2)の一般的導入

 主に裁判所側から簡裁特則である和解に代わる決定の制度(民訴法§275の2)の一般的導入も提案されています。

  簡裁特則である和解に代わる決定(民訴法§275の2) 提案
対象 金銭の支払の請求を目的とする訴え 無制限
要件 ①被告が口頭弁論において原則の主張した事実を争わず,その他何らの防御の方法をも提出しない
②被告の視力その他の事情を考慮して相当であると認めるとき
相当と認めるとき
手続 原告の意見を聴く 当事者に異議がない場合
決定の内容 支払を命ずる決定
①支払時期又は分割払い期間は5年以内
②分割払いの場合は,期限の利益喪失の定め
③不履行のない支払により遅延損害金の支払義務の免除も可
当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を考慮して,事件の解決のため必要な和解条項を定める決定
不服申立て 告知後2週間以内の異議申立て
⇒決定は失効
告知後2週間以内の異議申立て
⇒決定は失効
出典:日下部真治「セミナー『民事裁判手続のIT化の現状と未来』のPPT」79~80頁

 しかし,弁護士会側は,裁判官による当該手続の濫用を懸念し,この提案には消極的なようです。

おわりに

 以上,ざっくりと民事訴訟手続のIT化の現状と今後について説明してきました。

 本稿では,詳細には触れませんでしたが,フェーズ2やフェーズ3を開始するには,まだまだ多くの課題を乗り越える必要があり,一筋縄ではいきません。

 しかし,課題を乗り越え,我が国の民事訴訟手続がIT化され,もっと効率的なものになるといいなと思います。

✥ 参考資料
内閣官房・裁判手続等のIT化検討会「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ―『3つのe』の実現に向けて―」
商事法務研究会・民事裁判手続等IT化研究会の報告書

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