本稿では,次のサンプル条項を例に,危険負担に関する条項の修正方法を検討します。
第7条(危険負担)
本製品について,本検収を行う前に滅失,損傷その他の損害(以下,「滅失等」という。)が生じた場合には,当該滅失等は,それが買主の責めに帰すべき事由によって生じたときを除き,売主の負担とする。ただし,第11条(不可抗力)に定める場合には,同条に定めるところによる。
なお,サンプル条項が収録されている売買基本契約書のひな型は以下のページです。
民法改正に伴う修正
危険負担に関する規定は,2020年,改正されました(改正の詳細は下掲ページをご覧ください!)。
もっとも,基本的には,旧法下での実務の運用を民法上も反映させるための改正なので,従来の危険負担条項を新法下でもそのまま使用することも可能です。
ただし,危険負担の効果が,反対債務の消滅から反対債務の履行拒絶に変わった(反対債務を消滅させるには,別途,契約を解除することが必要になった)ことから,そのことを明確にするために条項を修正することは考えられます。
具体的には,次のような条項を設けることが考えられます。
【例①】
本製品について,本検収を行う前に滅失,損傷その他の損害(以下,「滅失等」という。)が生じ,これにより売主がその債務を履行することができなくなった場合には,当該滅失等が買主の責めに帰すべき事由によって生じたときを除き,買主は当該本製品に係る代金の支払を拒むことができる。ただし,第11条(不可抗力)に定める場合には,同条に定めるところによる。
【例②】
本製品について,本検収を行う前に滅失,損傷その他の損害(以下,「滅失等」という。)が生じた場合には,当該滅失等は,それが買主の責めに帰すべき事由によって生じたときを除き,売主の負担とし,買主は本契約又は個別契約を解除することができる。ただし,第11条(不可抗力)に定める場合には,同条に定めるところによる。
※ 本条では契約を解除できることを規定せずに,解除条項の解除事由として債務の履行不能を掲げることも考えられます。
危険移転時期に関する修正
危険の移転時期としては,実務上,①目的物の引渡し完了時,②検収完了時が多いように思われます。
一応,③発注時や④代金支払完了時とすることも考えられなくはないですが,危険は目的物を支配している者が負担するとの実務の基本的立場からすれば,通常,③や④が危険の移転時期とされることはありません。
以上を前提として,売主としては,なるべく早く危険の負担から解放されたいので,①引渡し完了時を危険移転時期とするよう契約交渉を行い,他方,買主としては,なるべく自分が危険を負担する時期を遅らせたいので,②検収完了時を危険移転時期とするよう契約交渉を行うことが基本となるでしょう。
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